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私はこの位置から男性を見下ろしたことがない。だから馬乗りになって鳴海くんを眼下に見ながら呆然としてしまった。
お風呂上りの鳴海くんが×200倍の爽やかさで一瞬でノックアウト
などという呑気な考えは一切浮かばなかった。
ただ、切実にこう思った。
これはこの状況でやってはならない取り組み…
密着している肌から、お互いの熱が伝わり合ってきた。大人だけが反応する何かに、ボウッと火が付きそうなった。
「なんの真似?」
鳴海くんに腕を掴まれ、私はようやく破廉恥な体位でまたがっていることに慌てた。
「ごっごめんなさいっ!!」
そこから急いで下りようとしたのに、今度は鳴海くんが上半身を起こしてしまった。腕を離してもらえず、私たちは馬乗りで向き合う羽目になってしまう。
私はどうしていいのかわからず、ただ目を見開いて鳴海くんの顔を見た。鳴海くんの目が奥がギラっとしているのがわかった。
これは男の目だ
愛情がなくともセックスが成立してしまう状況。でもこんな不本意な状況から、なし崩しでセックスになるのは絶対にいやだ。
初恋の人だから、悪い思い出にはしたくない!
これ以上は近づいてはならない、私は震える手で鳴海くんの胸を押し返した。
「夜はっ…友人でもそういう気分になるって聞いたことがある…。こういうのってダメだと思う…」
もう鳴海くんを見る自信はなくて、私は火照る顔を下げてそう伝えた。
「それは…俺だって同じだよ」
鳴海くんの少し拗ねているような声が小さく聞こえた。
あ…やっぱりそうなんだ
鳴海くんにとっては私は友人
それ以上の存在ではないんだ
それでいいのに、改めて言われると胸が痛んだ。
しかし、鳴海くんは二の腕を離してはくれなかった。
そして少し逡巡してから、こう口を開いた。
「藤川…俺のこと嫌いだった?」
「えっ?」
「…あの日、どうして来てくれなかったの?」
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