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そう聞かれて私が思い当たることは、ただ一つ。
きっとあの事だろう。
私は耳まで真っ赤に染めて言い訳をする。
「だってっ…郵送でもいいですよって言われたからっ」
「…………は?」
数秒、間をおいて鳴海くんが間の抜けた返事をした。焦る私は続けてしゃべってしまう。
「がん検診に異常がなければ結果は郵送できるって受付で説明されて、だから病院には行かなかったのっ」
鳴海くんがなぜか、まいったなって顔をしてぷぷっと笑いだした。笑う意味が私にはわからなかった。
「…え? そのことでしょう?」
「全然、違う。けど、検査結果は大丈夫だった?」
笑った顔のまま鳴海くんに訊ねられた。
「うん。陰性だったよ…」
「そっか。それはよかったです」
鳴海くんが医師の顔になった。
「次は経腟エコーもやらないとね」
「そうね…」
対面騎乗のまま、しばし流れる無言の間。
こ、これは一体、何の時間…?
「…まぁ、今日はいっか…」
鳴海くんのつぶやきの意味はわからないけど、もう男の目ではなかった。
「学会で使うスライドをつくらないといけなかった。先に寝ていて」
私の身体をひょっとベッドに降ろして、鳴海くんはベッドから立ち上がった。
「もう安心して寝ていいよ」
そう言って私の頭を軽くポンポンと撫でてから、部屋から出て行ってしまった。
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