何度でも恋におちる

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「聖三愛病院って芸能人とか大物政治家が入院するんでしょうー?」 「一般の方ばかりですよ。上層階に特別棟ありますけど、専任看護師がいるので私たちは誰が入院しているのか全く知ることは出来ないんですよ」 「都内のセレブ病院って、ドラマに出てくるような超絶イケメンドクターがたくさんいそう。素敵ー」 「でもさ、そんなセレブ病院で私たちが働いたって、一生モブで終わるんだろうねー。はははっ」 ランチは思い切って知らない方たちと座った。たまたま一緒になったのは、内科病棟看護師の田中さん、作業療法士の近藤さん。女子三人で話が盛り上がった。転職は初めてだったけど、どの病院でも素敵な同僚はいるんだと知った。  聖三愛病院に未練はあったけど、思い切った選択をしてよかったな 私はそう安堵していた。こんなに楽しい時間だけれど、どうしてもある人の視線が痛くてたまらなかった。その痛い視線はテーブルを挟んだ斜め左から放たれている。  それはずばり、鳴海くんだ。 鳴海くんの隣には予告通りの森さんがいた。森さんは満面のセクシー笑顔で、とぎれることなく話しかけているけど、鳴海くんは不機嫌にふくれた顔をしながら山菜蕎麦を食べていた。そして蕎麦をすすって顔を上げては、不服そうな顔で私を見てくるのだ。私はなんだか少し居たたまれなくなった。  そんな目で私を見ないで…  みんなでランチを食べたいって、  一言伝えておけばよかった… しかし、森さんに指摘され他の方と交流を持てたのはよかった。これで二名の職員と仲良くなり、本来の目的が達成できたのだから。 そしてランチが終わり下山が始まった。 「途中でみたらし団子を買って食べようよ」 近藤さんが誘ってくれた。 「うんっ、楽しみ…――っ」 私が近藤さんの提案に乗りかけたその時だった。 誰かに後ろからグイっと腕を引っ張られたのだ。 振り返ると、そこには 「――鳴海…先生?」 私を引き留めたのは、感情の読めない真顔の鳴海くんであった。静かだけど秘めている圧に近藤さんたちが空気を読んだ。 「えっと、私たち、先に行くねっ」 と行ってしまった。 「鳴海くんっ、どうしたの?」 私が困惑の表情で訊ねると、ポケットから取り出したスマホを突き付けられた。画面をみるとそれは、我聞のSNS『インシュタ』であった。  ”明日いとこが高尾山に天狗おやきを買いに行く  俺の好物! 早く買って帰ってこい!” 我聞がこんな投稿をしているとは呆れたけど、すっかり忘れていた約束を思い出した。 「我聞に頼まれているんだろう。これは早く買わないと売り切れる」 真顔を崩さず鳴海くんが教えてくれた。 「そ、そうなの?」 「お団子を食べている場合じゃないよ。早く買いに行こう」 くるりと反転させられ、そのまま背中をおされて私は鳴海くんと店を出た。
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