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私は鳴海くんに抱きしめられながら、ある日のことを思い出していた。
それは、卒業式の日のこと…
体育館裏で好きな子を待っている鳴海くんの姿。
あの日、鳴海くんが好きな子に告白すると我聞から聞かされて、ものすごいショックだった。友達を誘って、わざわざ体育館裏が見える道から帰ったんだ。そうしたら本当に鳴海くんがいた。呼び出した子はまだ来てはいなかった。私はそんな姿を目撃して、鼻がきゅんと痛んでものすごく泣きたかったのを覚えている。
三年間、鳴海くんは私のことが好きだとばかり思っていた。
それは勘違いだとわかった日。
友達が明るい子で冗談ばかり言ってくるから、私は泣かずに済んだんだ。
鳴海くんの行動を勘違いしないようにしなければならない。優しくされると、もしかしたら自分のことが好きなのではと勘違いしてしまう。だから今、抱きしめてくれているこの行動に意味はないんだって、自分に言い聞かせないといけない。
もう勘違いで泣きたくはないから…
「…昔も…こんなことあったねっ」
私は努めて明るく、鳴海くんにそう言った。
「え?」
鳴海くんの腕の力が緩んで、彼が私の顔を見た。
「ほら、部活の帰り。鳴海くんが傘を忘れて、一緒にシェアして帰ったことあったよね」
「……ああ…」
「あの時も、これくらい距離が近かったよね」
これくらい友達だから動揺しないよって、私は懸命にアピールした。
「…嫌だった?」
「ううん。バイバイして鳴海くんの後ろ姿を見た時、傘から出ていた肩が濡れていて申し訳なかったなーって。昔から優しいよね、鳴海くんは」
ただの同級生だよってちゃんと前面に出せている?
胸はだいぶ苦しいけど、私は頑張った。
だけどなぜか鳴海くんはとても切なそうな顔をした。
「…本当は傘を持っていたんだ」
「三階まで取りにいくの面倒だったもんね」
「ちがうっ。俺は藤川と一緒に――っ」
―――ガッタンッ―――
どれだけの間、私たちは抱き合っていたのだろうか。
轟音と振動が目的地についたことを知らせてくれた。
「………」
私たちは、笑いをこらえる。
なぜって、この衝撃で溶けたアイスクリームが私たちの顔に飛び散っていたから。
「ごっめーん。早く食べておけばよかったー」
「藤川、鼻先にでっかいのが付いてるってー」
深く悩んでしまいそうな話だったから、最後は大笑いで終われて逆によかったのかもしれない。私はそう思った。高尾山での思い出は最後まで楽しいものにしたかったから。
リフトから降りて気がついた。三つ後ろに森さんと山本さんが乗っていたことに。
集合場所に集まり電車を待つ間、森さんは誰かとずっと電話をしていた。電車に乗り込む際、私を見る森さんの顔に不敵な笑みが浮かんでいたのが、とても怖かった。
※「雨の日の部活の帰り道」
鳴海くんの当時の気持ちを書いています
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