私を守るひと

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私を守るひと

【P49〜51 鳴海蒼真の視点】 「赤ちゃんも3000g近くあるね。田島さんはこれ以上、体重を増やさないこと。産道に脂肪がつくと出産で大変な思いをすることになるからね」 「ドーナッツ、食べ過ぎたかもー」 本日、俺は午前の外来を担当していた。我聞の妹、田島亜里沙さんの定期健診日。薄暗い部屋で田島さんの腹部をエコーで検査し、画面上で児の推定身長や体重を計算した。そして、その結果が今の指導内容だ。 「予定日は変わらず、あと三週間前後だね」 「いよいよ出産かー。でも、鳴海くんも萌奈もいるし安心だわ」 田島さんは我聞にもよく似ていて、いい笑顔をする子だ。 「体重管理だけしっかりやってね。では、異常がなければまた来週で」 「はーい。ありがとうございました」 田島さんが重いお腹を抱えてよいしょっと立ち上がった。そして思い出したように俺に訊ねてきた。 「ところで、萌奈とはどうなっているんです?」 「どうとは?」 俺は顔を向けて聞き返した。 「あれ?萌奈が帰ってきたのは鳴海くんとまた付き合うためじゃないの?」 なぜそうなる、と心で突っ込みながらも静かに答えた。 「俺たち付き合ってないよ」 「中学の時、二人で毎日帰っていたのに?」 「部活が同じだから帰ってただけだよ」 「そうなんだ。お似合いだったのにね」 「…………そう?」 「うんっ。でも違ったんだね。じゃ、また来週、よろしくー」 「お大事に」 俺は診察結果を淡々と入力してゆく。その頭の端のほうで、ふわふわした気持ちが支配してきた。  ……俺と藤川、お似合いだったんだ……  付き合ってるように見えたんだ… ひょこっと外来看護師がやってきて俺に声をかけてきた。 「鳴海先生、午前の外来終わりでーす。  午後は二時からですから…って先生?」 看護師が俺の顔をマジマジとみてきたんだ。 「鳴海先生…顔」 と言われて、俺はまた鼻血が出てしまったのかと勘違いして、手のひらで鼻を抑えた。しかし、指には何もついてこなかった。 「鳴海先生、妊婦外来でニヤケ顔は禁止です! このご時世、セクハラと勘違いされますから! 表情を引き締めてくださいっ」 ものすごい勢いで怒られてしまった。多分、俺の顔の筋肉が緩んでいたのだろう。だめだな、無意識に感情が出てしまったらしい。顔にパシッと一発、気合を入れて「以後、気を付けます」とだけ返しておいた。
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