4140人が本棚に入れています
本棚に追加
私を守るひと
【P49〜51 鳴海蒼真の視点】
「赤ちゃんも3000g近くあるね。田島さんはこれ以上、体重を増やさないこと。産道に脂肪がつくと出産で大変な思いをすることになるからね」
「ドーナッツ、食べ過ぎたかもー」
本日、俺は午前の外来を担当していた。我聞の妹、田島亜里沙さんの定期健診日。薄暗い部屋で田島さんの腹部をエコーで検査し、画面上で児の推定身長や体重を計算した。そして、その結果が今の指導内容だ。
「予定日は変わらず、あと三週間前後だね」
「いよいよ出産かー。でも、鳴海くんも萌奈もいるし安心だわ」
田島さんは我聞にもよく似ていて、いい笑顔をする子だ。
「体重管理だけしっかりやってね。では、異常がなければまた来週で」
「はーい。ありがとうございました」
田島さんが重いお腹を抱えてよいしょっと立ち上がった。そして思い出したように俺に訊ねてきた。
「ところで、萌奈とはどうなっているんです?」
「どうとは?」
俺は顔を向けて聞き返した。
「あれ?萌奈が帰ってきたのは鳴海くんとまた付き合うためじゃないの?」
なぜそうなる、と心で突っ込みながらも静かに答えた。
「俺たち付き合ってないよ」
「中学の時、二人で毎日帰っていたのに?」
「部活が同じだから帰ってただけだよ」
「そうなんだ。お似合いだったのにね」
「…………そう?」
「うんっ。でも違ったんだね。じゃ、また来週、よろしくー」
「お大事に」
俺は診察結果を淡々と入力してゆく。その頭の端のほうで、ふわふわした気持ちが支配してきた。
……俺と藤川、お似合いだったんだ……
付き合ってるように見えたんだ…
ひょこっと外来看護師がやってきて俺に声をかけてきた。
「鳴海先生、午前の外来終わりでーす。
午後は二時からですから…って先生?」
看護師が俺の顔をマジマジとみてきたんだ。
「鳴海先生…顔」
と言われて、俺はまた鼻血が出てしまったのかと勘違いして、手のひらで鼻を抑えた。しかし、指には何もついてこなかった。
「鳴海先生、妊婦外来でニヤケ顔は禁止です!
このご時世、セクハラと勘違いされますから!
表情を引き締めてくださいっ」
ものすごい勢いで怒られてしまった。多分、俺の顔の筋肉が緩んでいたのだろう。だめだな、無意識に感情が出てしまったらしい。顔にパシッと一発、気合を入れて「以後、気を付けます」とだけ返しておいた。
最初のコメントを投稿しよう!