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私が同級生の藤川萌奈と気が付かない鳴海くんは、診察所見をつらつら説明しだした。
「会陰部も膣内も子宮口も目視では異常ありませんでした。あとは検査の結果を…」
と言ったところで、鳴海くんがようやく私に視線を移した。
そして私同様、フリーズした。
お互い半開きの口のまま数秒押し黙った。
そして、彼はもう一度ゆっくりとカルテを確認する。
「藤川って……あ……久しぶり……」
「…鳴海…くん…?」
この数秒間で、私は彼に何を披露してしまったのかを理解した。
きっと彼も自分が誰の何を診察したのかを理解した、と思う。
顔から火が出るどころではない。
一瞬にして灰になってしまったレベル。
照れを超えて、もう何も感じないレベル。
だから私は顔色ひとつ変わることはなかった。
ただとてつもなく切なくなり、涙があふれそうになった。
ここで同級生を診察してしまった気まずさからか、鳴海くんが急にどもりだした。
「と、とにかくっあ、あとは細胞診の結果だねっ。二週間前後かかるから、そ、そのころにまた来てっ」
今度は私の顔を見てくれず、まくし立てるようにそう説明した。
診察室を出てお会計を待ち、ようやく事態を飲み込めて私は耳まで真っ赤にしていた。
ど、どうして鳴海くんがここに?
聞きたいことは沢山あるけど、あの場で会話するのは無理だった。
私はお会計をさっと済まして足早にエントランスに向かう。スリッパを手早く除菌ボックスに入れ、靴に履き替える。それはもう手際よく。
好きだった人にアソコを披露してしまった今、一秒でも早くここから脱出したかった。
なのに―――
「藤川っ、待って」
あの懐かしい甘酸っぱい頃の記憶がよみがえる。
あの頃の鳴海くんより低いトーン。だけど、同じ部活で毎日一緒に帰っていた鳴海くんの声を忘れるわけがなかった。
振り返るとそこには小走りでやってきた鳴海くんが立っていた。
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