私を守るひと

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俺は気分よく売店に向かった。昼飯の調達だ。 サンドイッチを選んで、さっと店から出たところで声をかけられた。 「鳴海先生っ、話があるの」 それは森であった。たしか夜勤者だったはず。 すでに私服姿だったので、これは就業時間外ということ。だから付き合う必要はなしと判断し、返事はNOだ。 「午後も外来だから」 俺は足を止めなかった。「あぁもうっ」と森が不必要な艶声を出して隣についてきた。 「夜勤明けだろう。早く帰ったら?」 「ご心配ありがとう。少しでいいから時間をちょうだい」 なんとも艶めかしい声が俺の癇に障るんだよな。そういうのが無理なんだってと返事はしなかった。更に俺が速足になると森は途中でピタッと止まった。諦めたか、と俺はほっと一安心した。しかし、森が背後から妙なことを言い出してきた。 「ねぇ、藤川萌奈が聖三愛病院を辞めた理由、  知りたくない?」 藤川の名前が出て、俺は足を止めてしまった。 そして振り返ってしまった。 「ここは藤川の地元。帰ってきただけだろう?」 「やっぱり、鳴海先生も知らないんだ」 余裕そうに小首を傾げる森の姿に、俺はイラっときた。 「興味ないから行くわっ」 身体を翻そうとしたら森に腕を掴まれた。 「藤川さんね、婚約者がいるドクターを奪略しようとしたんですって」 「…え?」 あまりに非現実な話に俺は再び足が止まってしまった。森がねっとりと近づき、俺だけに聞こえる声で言ってくる。 「その婚約者が病院に乗り込んできて、藤川さんは外来で写真をばらまかれて怒鳴られたらしいわ。それを目撃した看護師が言ってたの。かなりの修羅場だったって。それからすぐに藤川さんは病院を辞めたみたい」 にわかには信じがたいことを言いだした。 「……どこの情報だよ」 「看護師のネットワークをナメないでね」 森が自信ありげにふっと笑った。ものすごい悪意に満ちた顔に見えた。きっと、耳に挟んだということじゃない。関係者に聞きまわって情報を集めたのだろう。やることが性悪すぎる。 「藤川のプライベートだろう。詮索するなよ、 趣味が悪い」 腕を振り払おうとしたら、更にひっぱられてしまう。 「ねぇ、この話がこの病院でも広がったら、藤川さんはどうなるかしら?」 こいつ…噂を広める気だ。 思わず俺は眉を寄せてしまう。 「……森は、何がしたいの?」 「藤川さんの醜聞、黙っててあげる。  その代わりに…」 森はそう言いかけ、自分の肩掛けバックから二枚のチケットを取り出した。そしてそれを俺の前にかざした。     「月野リゾートの宿泊券。    一緒に行ってくれるよね?」
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