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帰宅途中、フラッシュバックに襲われて膝から崩れそうになりながらも、なんとか帰宅できた。
検査を受けただけなのに…
なぜこんなにも疲れたんだろう…
「ただいま…」
玄関に入ると脱ぎ捨てられた男性用の革靴が私の目に入った。
これは”いとこ”である田島我聞のものだ。
私と我聞の母親は姉妹であり、自宅も背中合わせに建っている。
小さい頃からお互いの家を自由に行き来しており、もはや兄弟といったほうがしっくりくる間柄だ。
我聞は父親似、私は母親似。そのため血のつながりはあれど、私たちは全く似ていない。
我聞は父親同様、四角顔にごっつい躯体、目はやや吊り上がり大きな口をしている。
私はそれなりに可愛いといわれるレベル、だと自認している。
リビングに入るといつも通り、我聞がソファーを占領しながらTVを見ていた。
キッチンに立っていた母が私に気が付き声をかける。
「萌奈、おかえり」
そして、母の視線はすぐに我聞に移った。
「我聞、今日は夕飯一緒に食べていくの?」
そう訊ねられて、我聞は鼻の穴を広げ周囲の匂いを嗅ぎだした。
「俺の大好物カレーの匂いがするから、今日はここでたべまーす」
食事だって両家ではフリー使用になっているくらいだ。
ソファーに座るのを諦めた私は仕方なくダイニングチェアに腰を下ろした。
身体は元気なんだけど、精神的ダメージのせいで脳内がかなり疲労していた。
そんな私をみた我聞が不思議そうに訊ねてきた。
「萌奈、体調悪いのか?顔が赤いのに、青ざめてもいるぞ?」
多分、本当にそんな顔色をしていたと思う。
本日の感情を表現したら、
「羞恥(赤)」と「絶望(青)」だもの。
「まぁね。今日は…ついてなかったのよ」
私は深くため息をついて、手指でおでこを抱えた。
「俺はすごいぜ。今日は公共施設の補修工事入札を落札したんだぞ。やっぱり俺にはヒキがあるんだっ」
田島家は地元でも有名な土建屋だ。父親と一緒に我聞も営業マンとして働いている。
「我聞って、ここぞってときの運がいいのよねー」
私は半目になって我聞唯一の良いところを褒めてあげた。
「俺って人からも好かれるけど、運からも愛されちゃってるんだよな」
我聞はそうって頭の後ろで両手を組みほくそ笑んだ。
なんとも小憎たらしい奴。
しかし我聞は本当に人から好かれる人種だった。中学生の頃、身体がデカいというだけでヤンキーに目を付けられたのに、卒業時には一緒にカラオケに行く仲になっていた。
そう、我聞は恐ろしいほどのコミュニケーションモンスター。
中三の頃、我聞はあの鳴海くんとも仲良くなって、教室で談笑している姿をよく見かけた。
あの上品で賢い鳴海くんが我聞と会話が続くなんて、初めの頃は信じられなかったくらいだ。
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