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「そういえば亜里沙が里帰りしてるんでしょう? 何か手伝えることある?」
亜里沙は我聞の妹で私の二つ下だ。出産に向けて絶賛里帰り中だ。
私はテーブルに準備されているサラダのトマトを一切れ食べながら訊ねた。
「何もねーよ。母ちゃんも父ちゃんも初孫だからって、亜里沙のことを姫みたいに甘やかしてよ」
そう言って我聞は口を突き出して拗ねた。
「ははっ。初孫じゃ、仕方ないよね」
「俺まで毎日こき使われてよ…って、やべぇっ。仕事帰りにMrsドーナッツ買ってこいって頼まれてたんだった!」
くつろぎから一転、御用聞きを思い出した我聞は急いで靴下を履きだした。
「俺って何かに夢中になると、頼まれごとを忘れる癖があるんだよなー」
「昔からね。本当、我聞って成長しない」
「うるせー」
と言い合ってたら、家のインターフォンがなった。
私が画面を覗くと、そこには剣幕な表情の亜里沙が映っていた。
「お兄ちゃん、来てますか」
「いるよー。今日もここで油を売ってる」
私が答えると、
「萌奈、てめー」
我聞が素早く私に振り向き、憎たらしそうに顔面を寄せた。
亜里沙がリビングに入ってきて、開口一番、我聞をしかりつけた。
「お兄ちゃん!約束のドーナッツは買ってきたの? 赤ちゃん用のコットも組み立てたいから早く帰ってきてって頼んだでしょう?」
「帰ったらやるってば…」
我聞はたじたじになる。コミュモンも妹だけは懐柔できないらしい。
私は亜里沙に歩み寄る。
「秋ごろ出産だよね?」
「そうなの。しかも掛かりつけは若葉総合病院! 萌奈はその産婦人科で働くんでしょう?」
「うん、本当にすごい偶然ね」
亜里沙は嬉しそうに胸の前で指を組んだ。
「担当医も私の知り合いだし、本当に心強いわ!」
「出産当日に私が勤務していたら全力で応援するからね」
「ありがとう!絶対に分娩室に来てね!」
本当にそんな偶然が起きたら奇跡だろうな。
いとこの出産に自分が関われるなんて。
そこに母が声をかける。
「亜里沙も夕飯食べていきなよ。今日はカレーよ」
「わーい。おばさんのカレー大好き」
こんな感じで、田島家と藤川家は仲良く付き合いをしている。
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