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「この創の糸がつって動きづらいのよ。どうにかならないかしら」
朝の包帯交換を私は鳴海先生と一緒に回っていた。開腹手術後の創の消毒中、患者の本田さんが創の違和感を訴えた。
鳴海先生が消毒しながら縫合糸の観察をする。
「糸のテンションはきつくはないですね。徐々に溶ける糸ですから違和感は少しずつなくなりますよ」
「でも…気になって動きたくなくなるのよ」
本田さんも困り顔で訴えた。そこに私が鳴海先生に報告する。
「鳴海先生。本田さんはそれが気になって離床が遅れています。昨日もベッド周りしか歩けていません」
「そうですか…。では、創の治りは良好ですから、糸を間引きして引きつれを減らしてみましょうか」
鳴海先生は本田さんにそう提案すると、本田さんもほっとした表情になった。
「クーパー」
鳴海先生が指示を出して私が清潔操作でクーパーを差し出した。それを鳴海先生が受け取り縫合糸を数本カットした。
もちろん、その真剣な眼差しに滲む色気は健在で私は逃さず見惚れる。もうこれ私が中学生のころからのルーティーン業務だ。
今日も素敵。そして大好きだな…
心の中だけでのろけて仕事の疲れを癒している。そして処置が終わった。
「どうですか? これで動きやすくなったと思います」
「うわ本当。引きつれが気にならない。ありがとう先生」
私は本田さんの着物を手早く直した。
「本田さん、これで積極的に離床ができますね。動いた方が創の治りは早まりますから頑張りましょうね」
私はニコリとそう声をかけた。本田さんはなぜか嬉しそうに私と鳴海先生を交互に見てきた。
「二人はお似合いね。あなたたちにやってもらえると安心するわ」
「そうですか。ありがとうございます」
二人で目を合わせてちょっと照れた後、そう言ってくれた本田さんにお礼を伝えた。
処置が終わり私たちは包交車を押しながら並んで歩いた。
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