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本日、病棟での私たちはいい緊張感に包まれていた。
「鳴海先生! 亜里沙が陣痛で病棟に上がってきます」
朝の回診後の記録入力をしていた鳴海先生に私がそう報告した。
「了解。いよいよだね」
鳴海先生が使用していたパソコンから視線を外してそう答えた。
そして廊下から聞き慣れた騒がしい声が聞こえ始めた。どうやら我聞が亜里沙の付き添いで病棟にやってきたらしい。私は急いで廊下に出ていった。
「我聞!」
身の置き所がなく廊下をうろうろしている我聞に声をかけた。めったに見られない我聞の不安な表情。
「萌奈! 今、亜里沙が分娩室に案内された。旦那はすぐに駆けつける。うちにとって初孫だろ? だからどうか無事に…」
それはまるで亜里沙の父親のようだった。でもそんな気持ちになっちゃうよね。それだけ家族のみんなが赤ちゃんの誕生を待ち望んでいるってことだもの。
「大丈夫よ。鳴海先生もいるから我聞は落ち着いて待っていて」
そこに鳴海先生もやってきた。その姿をみるなり我聞はまた興奮しだした。
「蒼真! 亜里沙を頼むぞ! 俺の甥っ子になるんだっ。どうか無事にっ」
「うん。わかった」
興奮する我聞に鳴海くんは落ち着いて対応した。我聞を家族控室に案内してから私たちは分娩室に向かった。
分娩室前の洗浄場で二人並んで手指の洗浄を行う。何気ない仕事の一コマ。だけどあなたがそばにいるだけで、そのすべてに幸せを感じるんだ。フットペダルから足を外して止水する。そしてぺーパーで拭き上げる。
鳴海くんが私を見る。
「行こうか」
「うん」
私が答える。
分娩室前、光取り窓から差し込む日差しに私は目を細めた。キュっとナースシューズを鳴らして私たちは分娩室へと入って行った。
今日も明日も明後日も、私はあなたと一緒にこの仕事をしていたい。
私は蒼真と一緒に働くこの病棟が大好きだから。
ー本編ENDー
\最後までお読みいただき感謝です/
続いて鳴海蒼真 編です
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