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二重取引の結末
「相談がある」
ウッホ王子ことアレンのバナナカフェ二号店がオープンして数日後。
忙しい最中でも忘れずに賄賂を欠かさなかったアレンが、本日は神妙な顔で王女ニーナに面会を申し入れていた。
内容は想像がついている。
アレンが店にかまけている間に有力貴族を掌握したダレンが、アレンを望まぬ状況に追い込んでいた。
このままでは王女ニーナが何も言わなくても周囲がアレンを王太子、ひいては未来のムケナイン国王としての道を築きつつある。
後手に回った時点でアレンの負けは確定しているが、賄賂を受け取った王女ニーナはアレンの為に策を練らねばならない。
と言っても、その策はすでに用意している。
乗るか反るかはアレン様次第だけど。
「アレン様も知っての通り私はダレン様の子種が欲しいのです。その願いを叶える為にはアレン様に王太子になって、」
「子種が欲しいなら俺のをやる。俺もソウロの兄だ。経験が少ないので満足させてやれないかもしれないが、早漏でも遅漏でもないことは利点だと思う」
前のめりで自己PRをされた。
それだけ必死なのは分かるけど、話は最後まで聞いて欲しい。
「私はソウロ様に似たダレン様だから子種が欲しいのであって、兄弟なら誰でも良いわけじゃないのです。ですから、」
「俺とダレンとソウロは正真正銘、同腹同種だ。俺からでもソウロに似た子が産まれる可能性だってある!」
……確かにないとは言わない。
兄弟だし、兄なのは事実だし。
だけどその前に、ゴリラが強く出る可能性が高い。
陛下も王妃も容姿端麗。
突然変異としか思えないゴリラアレンの子種なら、ミニチュアゴリラを抱いた未来しか見えなかった。
「可能性の話しはひとまず置いて本題に戻りましょう。よく聞いて下さいませ。アレン様がたとえ王太子になり、ムケナイン王になったとしても、」
「ニーナ! 俺を見捨てるつもりか!」
アレン様の咆哮に耳が痛い。
これで三度目だ。
脳筋情報は正確だったが次はない。
「お口チャックでお願いします。それが出来ないなら本当に見捨てま、」
「分かった黙る。黙るから助けてくれ」
「……まず、アレン様が王太子や王になりたくない一番の理由は、縛られたくないからではありませんか?」
「そうだ」
「では、それがなくなればなってもいいわけですよね」
「ああ、無理な話しだがな」
途端にゴリラの圧が消えたアレン。
虚ろに目を濁らせる可哀想な獣を救って差し上げしょう。
王女ニーナとアレンの密会後、ダレンの思惑通りアレンは王太子に任命された。
その数年後には王になることも決定し、数多の祝いの陰でソウロだけが悔し涙を流していたらしい。
起死回生を狙うため何度も妻の元に通い詰めるも、護衛のモリンに尻を揉ま、阻まれて、逃げ帰るしかなかったそうな。
そんなソウロの奮闘ぶりを知らない王女ニーナは、無事ダレンの子種を注がれ懐妊。
未来の完璧イケメンを夢見ながら妊婦生活を満喫していたところ、腹の子の父であるダレンが押しかけて来た。
「約束が違うじゃないか!兄上は嫁は要らんと突っぱねているし、菓子作りもやめてないぞ」
「そんなもの知りませんわ。私とダレン様の取引は、アレン様をこの国のトップに据えることです」
「議会もそれを了承しているということは、ニーナの仕業だろう?」
「……私、アレン様のバナナ甘味のファンですの。安価で栄養価も高いものを国民に提供する姿勢も、将来の王として大きな功績となりますわ」
「だから何だ。だから結婚しない、子も作らない、菓子だけ作る一国の王がどこにいる」
「あら、片手間ですけど執務もこなしておりますわ。どこかの浮気者と違って」
「王には王の仕事がある。片手間で出来るか」
「貴方が補えば宜しいでしょう。幸い後継となる子供はダレン様が沢山お作りになっておりますし、執務だってフォローされ何の問題も出ていないではないですか」
「……ソウロにバラすぞ」
「どうぞご勝手に。どうせ子を産めばバレるもの。早いか遅いかの違いですわね」
「くっ……!」
妊娠した時点で王女ニーナの勝利は確定。
子種さえ頂ければダレンは大国の姫の敵ではなかった。
狡猾ダレンを言い負かした王女ニーナに、部屋の隅で待機していた侍女ミミは、いつかの仮は返したと内心拍手喝采、小躍り状態で主の勇士に涙する。
あとは出産を迎えるだけ……と思っている二人は気付いていない。
まだ結果が出ていないということを……
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