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油断大敵
悪阻で苦しむ王女ニーナは、王太子アレンお手製のバナナスムージーと、侍女ミミ特製の栄養ぶっこみスープで乗り切り何とか出産にこぎつけた。
初産の割に安産だった。
産後も母子共に健康。
床上がりも早く、侍女ミミに連れられ雇った乳母に抱かれる我が子と対面する。
喜ばしいことに、赤ん坊はしっかりとダレンの容姿を引き継いでいた。
「可愛いわね」
「そうですね」
「女の子ね」
「そうですね」
王女ニーナと侍女ミミの二人はすっかり抜け落ちていた。
完璧イケメンを望むあまり、女児の可能性を考えていなかったのだ。
「もう一回頼んでみたらどうですか」
「頼んでくれると思う?」
「ダレン様をやり込めたので難しいかと」
「そうよね」
取引を反故にしたわけじゃないけれど、ダレン様を欺いたも同然のことをした。
表立って敵対してないだけで、赤子の性別が違ったのでまた子種を下さい、なんて言える関係じゃなくなっている。
仮に頼んだとしても、あの狡猾なダレン様は絶対に頷かないだろう。
「やっぱりソウロ様に、」
「アレは種なしになりましたよ」
「え、いつ? 聞いてないわ」
「今言いました。種なし早漏は役に立たないので幸運なことにその案はないです」
侍女ミミの暴露に王女ニーナは驚いた。
でもそれだけである。
すっかりソウロをお飾りの夫にしていたので、深い内容はどうでもよかったのだ。
「アレン様に……しますか」
「ないわ」
「ですよね」
こうして次に望みをかけるようなことを話しているが、赤子が女児で落胆しているわけじゃない。
腹を痛めて産んだ我が子は性別がどうであれ愛しい存在だ。
しかし、本来の目的を達成しないことには、名ばかりとはいえ夫がいるのにダレンに子種を貰った意味がない。
そのダレンは無理になり、ソウロは子種がなくなり、アレンに至っては容姿の関係でお願い出来ない、となると。
「……お義父様かしら」
「ニーナ様。お気を確かに。さすがにそれは看過できませんよ」
「分かっているわ。言ってみただけよ」
好みドンピシャなソウロは義父と義母、つまり陛下と王妃の遺伝子によるものだ。
アレンという突然変異は起こったものの、確率的に美形を産んでいる。
これを鑑みれば、義母の遺伝子が含まれない義父と王女ニーナの子が美形になるとは言いにくい。
「もういっそのこと、ムケナイン王族に括らず、一から自分好みの容姿をした殿方を探した方がいいかもしれませんね」
「……ミミ貴女、とってもいい考えね」
夫の兄と子供を作った王女ニーナ。
モラル崩壊なんて今更だった。
目標が見えたら即決即断即実行。
その前に、妊娠中はずっと無視していた夫ソウロに会わねばならない。
先触れで妻がやってくる事を聞いたソウロは、自室で落ち着きなくソワソワしていた。
この一年、ずっと冷や飯を食わされ、地獄の後宮ルーティン生活を送ってきたが、やっと許してくれたんだ、と淡い期待をしていた。
「対外的には貴方の子、ということにしますので宜しくお願い致します」
「……」
「これからも増える予定ですが、それを黙認下さるのなら離縁はしませんし、何不自由ない生活を保証しますわ」
「……」
「後宮も本当の貴方好みの方を選びますが、それはあくまで隠れ蓑です。
夫にあって妻にはない、というのは不平等でしょう? ですから私も後宮を持ちたく思いますの。ああ、心配しなくても公にはしませんので、貴方の名誉は守れますわ」
妻が何を言ってるのか分からない。
と言えたらいいが、ソウロは頭脳派だった。
しっかりと意味を理解した。
妻に許されていない。
今後も許されることはない。
大国の姫という妻をないがしろにした手痛いしっぺ返しは、想像以上だった。
産まれた子がダレンとの子と言うことも、自分好みの男と子を成すつもりだと言うことも。
そして自分は、お飾りの夫として生きて行かねばならず、拒絶は死を意味するだろうことも。
いっそ死んだ方がマシかもしれない。
いや、自害しなくとも、そのうち病死と偽り毒を飲まされるか、暗殺されるか、見に覚えのない罪で処刑されるだろう。
王女ニーナの胸先三寸で、いとも簡単に。
その後、宣言通り秘密裏に後宮を持った王女ニーナは、美男美女揃いの子供を五人産み、その子供が成人し孫が出来る頃、夫であるソウロは後宮の片隅でひっそりと亡くなった。
独身王アレンはダレンに早々に譲位して、王女ニーナの融資で僻地に大規模農場を開墾。
そこで育ったバナナはダレンの手腕で多国に輸出され、二人は代々語り継がれる賢王となった。
夫を亡くした王女ニーナは晩年、農場側の避暑地にて、侍女ミミと共にスイーツ三昧という余生を楽しんだという。
(完)
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