情報収集します

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顔が良い。 とにかく良い。 自分の理想を詰め込んだ完璧な外見を持つ夫ソウロは、婚姻前は初心な乙女心を鷲掴むラブレターを寄越して来たものだ。 昨夜は貴女の夢を見た。 貴女も私の夢を見てくれているだろうか。 夢が現実になることを切に願うよ。 好きだ。 愛している。 今思えば、これらの言葉に真実は一つもなかった。口から出まかせもいいところ。もしくは代筆を疑う余地しかない。 結婚から半月が過ぎた。 初夜以来、夫ソウロとは顔も合わせていない。 傷のせいでもあるが、夫の本音を聞いた瞬間、恋は復讐へと変貌し、目を逸らしていた現実に戦う準備を整えるため忙しかったのだ。 後生大事にとっていた紙クズを火にくべる。 有り余る金で幾多の貴族に侍女や侍従、庭師や料理人に至るまで懐柔した王女ニーナは、秘密裏に雇った平民の探偵まで使い、復讐相手たる夫ソウロのこれまでの行動や趣味思考、国民の評判、噂、あらゆる情報をかき集めていた。 燃やした紙クズから大事な情報源に持ち替えた王女ニーナは、羅列された文字を読み込んでいく。 ソウロ・ムケナイン ムケナイン国の第三王子。 年齢 25歳 大国の姫の後ろ盾を得て、長男次男を押しのけ王太子に任命される。 ここまでは王女ニーナも知っていた。 顔ありきだったので、誰でも知り得る情報のみしか調べなかったのだ。 自分の迂闊さ甘さに、恋は盲目という格言に激しく同意せざるを得ない。 問題はここからだ。 基本情報以外のものが本丸。 ソウロ・ムケナインの気性、性格、好みについて。 表面上は穏やかで理知的。 腕力より頭脳派。 顔が良いので幼い頃からモテていた。 初体験は12歳。 相手は未亡人となったキャリー伯爵夫人。(40) そこから、熟女好きに目覚めたらしい。 恋の相手は40歳前後ばかりで同年代には見向きもせず、歳下は論外。 女は経験値の高さで決まる、が口癖。 「……典型的な欲に溺れたクズね」 王女ニーナは内面を知る前に外見にふらついた己を恥じた。女を性の対象かどうかで判断する下半身脳に、頭脳派が聞いて呆れると鼻で嗤いたかったが、見事落とされた自分へのブーメランになるので、ソッと次に目を走らせる。 ソウロ・ムケナインの近況 初夜以来、妻を放置。 釣った魚にエサはやらずとも、どうせ惚れているのだから大丈夫、とたかを括っている。 執務はそれなりにこなしているが、大半を実兄二人に押し付け自分は熟女遊びに勤しんでいるもよう。 婚姻後は妻の後ろ盾を振り翳しヤリたい放題。 「なんっっっなのよコレは!!」 怒りのあまり大事な情報源を引き裂くところだった。王女ニーナを軽んじる言動や行動も目に余るが、それ以上に自分が引き金となって周囲に迷惑をかけている事実に胸を抉られた。 陛下や王妃の諌める声にも耳を貸さない。 王女ニーナという大国の威を借りる小物に過ぎないのに、夫ソウロの振る舞いは尊大かつ悪辣だった。 「離縁して国に帰りましょう」 侍女ミミが至極真っ当な助言をする。 王女ニーナの手にする情報源には載せていないが、ソウロが前戯もせず初夜を行ったのは、処女相手に手間をかけるのが面倒だったのと、大国の姫を手酷く扱える愉悦があったからだった。 クズな上にサディスト。 サディストな上にチンケなプライドは山のよう。 そんなものの為に自分の主が傷付けられたこと、恋する乙女の初めてを踏み躙ったことは到底許されることではない。 密かにソウロに対し殺意を募らせていたミミは、自国の騎士団長たる兄に此度の所業を密告し、暗殺部隊を送って貰うつもりでいたのだが、鬼気迫る勢いで書き上げた手紙は主によって取り上げられた。 復讐は己の手でするものよ、と諭されて。 主の命に否はない。 ないが、ソウロの内面を知れば知るほど、こんな男が主の夫を名乗るのかと憤懣やるかたないのだ。 「国には帰らないわ。どうせなら優れた容姿の遺伝子は頂きたいもの」 「ですが……アレはクズで熟女好きですよ」 「そうね。それを逆手に取ることにするわ」 「逆手……とは?」 「ふふ。見てらっしゃい。ますば義父と義母に会います。悪巧みは周囲を味方にしてからよ」
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