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夫と後宮と妻の三つ巴
「ニーナ様、アレがお目通りを求めていますがいかがなさいますか?」
「無視で」
「承知しました」
侍女ミミは速やかに主の命を実行すべく、新たに雇い入れた屈強な護衛兵にアレことソウロを扉の前から排除してもらった。
ニーナニーナと、喚く声が遠ざかる。
連日のやり取りにこちらの手際はキレッキレ。
ソウロの方は日増しに痩せ細り、唯一の取り柄である美形に陰りが伺えた。
よそで子種を撒き散らさないよう、スパルタな後宮計画書が遺憾なく発揮されているようだ。
「本日はシワンヌ様とイレーバ様の日です」
「泣きついてきたのかしら」
「そのようです」
「カターコリ様も加えてあげて」
「ぷっ……鬼ですね」
侍女ミミがたまらず噴き出した。
毎日の癒しスケジュールを組んだのは王女ニーナである。
執務を放ってまで性に明け暮れていた夫の為、時々ではあるが一夜に二人の癒しはご褒美タイムとして設けていた。
今夜は三人……さすがのソウロも搾られ干からびるのではないか。知らんけど。
王女ニーナは初心な女はつまらんと言ったソウロへの意趣返しと、自分以外が子を孕むのを避ける為、好みの40歳前後を大幅にオーバーした飛び抜けた経験値を持つ熟女を集めたが、どうやらソウロは早々に根を上げたらしい。
後宮を廃止しろと毎日のように突撃してきては、すげなくあしらわれていた。
「皆様ご機嫌よう。首尾はどうですか」
後宮の愛妾を労うのも正妻の役目。
手土産の高級菓子と幻と謳われる若返りの茶葉で、情報収集という茶会を楽しむ。
「最近、勃ちが悪くなったようですわ」
「ええ、中折れすることもしばしばですわね」
タレーヌ夫人とヨーツウ夫人が口にすれば、シワンヌ夫人とカターコリ夫人も頷いた。
枯れた男専用アイテム。
性欲マッハでよみがえーるという、少々お高いがえげつない強力な媚薬香を焚いてもこの有り様らしい。
潮時かしら、と王女ニーナは思案する。
「私の口淫にかかれば萎びたモノは天を向きますわよ」
若干一名イレーバ夫人だけは得意げに胸を張っていたけれど。
「なるほどね。私としてはまだまだ後宮を活用したいところですが、皆様の意見を尊重したく思いますわ」
「ニーナ様、失礼でなければ私はそろそろ体力の限界かもしれません」
「私も、持病の腰痛が悪化したので寝所の癒しはここら辺で辞退したいですわ」
タレーヌ夫人とヨーツウ夫人が遠慮気味に申し出れば、シワンヌ夫人とカターコリ夫人も同意する。
最後の砦となったイレーバ夫人でさえ、自分一人が相手をするにはソウロ様は若過ぎる、と口淫すれば際限のない性欲にうんざりした様子だった。
「仕方ないわね。イレーバ夫人には無理のない範囲でお願いするとして、他の四名は務めを果たした慰労金を受け取って後宮を辞していいわ」
侍女ミミより分厚い封筒を配られた四名は、いそいそと立ち上がり、王女ニーナの太っ腹な計らいに深く深く頭を下げる。
私も覚悟を決めるべきね。
王女ニーナは愛妾四名の後ろ姿を見ながら、悪夢の初夜から二度目の子作りに挑む決意を固めた。
「ミミ、ソウロ様に久しぶりに夕食を共にしたいと言伝を頼むわ」
「……いっそ子種だけほじくり出しましょうか」
「ほじくった子種で子が出来るならいいけど、あの長さのブツで私の中に吐き出さないと効果はないと思うの」
「うぅ……っ、私に男の象徴があればニーナ様を苦しめる事なく孕ませるのに……」
「まあミミったら。そんなに心配しなくても大丈夫よ。愛妾達の話しによれば、ソウロ様は回復は早いけど三擦り半の早打ちだって。私は激痛過ぎて覚えてなかったけれど、連日連夜閨を共にしていた方達の意見に間違いないはずよ」
「……ソウロだけに早漏でしたか……」
なんとなく溜飲が下がったのはミミだけか。
ほんのり殺意も薄れてしまったが、子種は一夜一回こっきりと王女ニーナに進言するのは忘れない。
ソウロが回復して万が一にも襲いかかって来たならば、固めた拳で鼻っ柱を殴るべし、と騎士団長たる兄直伝の痴漢対策を教えた。
「ソウロ様のお顔を殴るなんて……」
「美形が歪むのを許せないなら側頭部、もしくは顎でも構いませんよ」
脳を揺らすと、鋼の肉体を持ってしてもたちまち意識を失うらしい。
これまた兄直伝の暴漢者対策マニュアルだ。
大事な子種が出る股間を蹴り上げる、という技は後々、子を成した後で伝授しよう。
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