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計画の見直しは必須
夫婦水入らずの夕食にソウロは現れなかった。
正解に言えば、来れる状態ではないらしい。
「医師の見立てでは、連日連夜の癒しにより、腰を疲労骨折したもようです」
「まあ! (顔は) 大丈夫ですの?」
「そのままくたばってもいいのに、(顔は無事だし身体も) しぶとく全治二ヶ月とのことです」
最近のミミは自分の感情を言葉にするのに戸惑いがなくなったようだ。
それを咎めない主も主だが、若い男に枯れた男専用の媚薬はやり過ぎたのね、とせっかく立てた子作り計画を一から練り直すのに忙しい。
「ニーナ様、これは神のお導きではないでしょうか」
「どういうこと?」
「アレは確かに顔 (だけ) は良いです。それは認めますが性格はクソだし若い時分から色んな熟女に突っ込み過ぎてタチの悪い性病を患っている可能性が高いでしょう。ですが、それよりももっともっと重要かつ甚大な心配があるのですよ!」
「ちょ、ミミ。分かったから落ち着いてちょうだい」
さすが武門の血筋。
ミミに武力はないけれど、騎士団長を務める兄の妹だけあって、気迫と威圧は凄まじかった。
暑苦しい鼻息から火が出そうだわ。
「いいえニーナ様! 顔だけでアレの子供を産むつもりだった貴女は分かっておりません! アレはアレはアレは!!早漏なんですよ!!」
あらやだ。
ミミの両っ鼻から火柱が見えるわね。
怒りの頂点に達した、ということかしら。
火柱の火力が上がらないよう扇子でそよ風を送りつつ、愛妾に聞いているから知っているわ、と緩く答えたらミミの目が瞬時に座った。
「遺伝したらどうするんですか」
「ええ?」
「ニーナ様はアレの容姿にこだわっておりますが、三擦り半の遺伝もあり得なくはないんですよ」
「まさか! なんてことなの?!そこまで考えていなかったわ!」
王女ニーナは戦慄した。
未来予定では、後継者たる立派な男児を産んで、その男児に引き継がれた完璧な容姿と、王女ニーナが妄想していた完璧な性格に育て上げ、心技体三拍子揃った真のイケメンを世に送り出すはずだったのに。
三擦り半が遺伝するなんて聞いてないわ!!
「ねぇ、ミミ……世の令嬢は完璧イケメンの早漏を許容出来るのかしら……?」
「ニーナ様、初心に返れば分かると思いますが、イケメンへの期待値は半端ないのです」
「ええ、ええそうね。骨の髄まで身に沁みて分かっているわ。イケメンが自分の想像と外れたことをすると、盛大にガッツリするし幻滅するし可愛さ余って憎さ100倍ですもの」
王女ニーナとて、甘い甘い初恋をソウロに抱いていたのだ。
初夜で強姦されたあげく駒扱いされ、熟女との浮気三昧を見せられた今だからこそ、早漏という問題が無問題になっているだけで、容姿に打ち抜かれた直後に早漏だと知ったら、ハートマークになった瞳がただの目になるぐらいの衝撃度はあるだろう。
「……やっぱり三擦り半はダメよね」
「ええアウトです。イケメンは相手を緩やかな絶頂に導いた後、自分が達するものなんです。入れた瞬間発射など言語道断。全く萌えませんし燃えませんし、えもう終わり? と雰囲気ぶち壊しですよ」
ミミの力説に反論出来なかった。
未来のイケメン息子が令嬢に、えもう終わり? と思われるなんて許せない。
それはもはや完璧じゃない残念臭漂う男でしかなかった。
「ソウロ様の疲労骨折は神の采配だったわ」
「その通りでございます」
「性欲マッハでよみがえーるはいい仕事をしたのね」
「ニーナ様の差し入れの中で一番の活躍でした」
「離縁、するしかないのかしら……」
でも惜しい。
あの容姿は惜しいのよ。
それに、まだ復讐という復讐をしていない。
初恋が散った痛みも返せていない。
このまま離縁なんて、まるで尻尾巻いて逃げる負け犬のようだと王女ニーナは歯噛みする。
悶々と悩むこと数分。
何本かへし折った扇子をミミが回収し、とうとう最後の一つ、自国のお祭りで父が射止めたおもちゃの扇子の柄を見て閃いた。
「串に刺さった団子……そう、この団子よ!ミミ、早急に渡りをつけて欲しい相手がいるのだけど、その前に今から言う人物達の身辺調査をお願い!」
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