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身辺調査結果発表
王女ニーナの命は、破格の対価に目の眩んだ貴族や侍女や侍従、ひいては市井の探偵組合がこぞって秘密裏に素早く動いた結果、三日も絶たずに膨大な量が届けられた。
「ニーナ様、アレが図々しくも見舞いを所望しているようですが」
「イレーバ夫人に代わりを頼んだらいいわ。絶対安静で動くに動けないのだから、溜まるものもあるでしょう。私が行くよりよほど効果的だわ」
串に刺さった団子の扇子で指示を出す。
この身辺調査の結果次第では、一番下の団子は串から引き抜かれる運命にあるのだ。
さて、一番上の団子はどうかしらね?
アレン・ムケナイン
ムケナイン国の第一王子。
年齢 29歳
王太子だったが三男ソウロの婚姻を期に王太子の座を退き妻とも離縁している。側室や愛妾はなく、子供もいない。
「えっ、もしかしてこれって私のせい?!」
基本情報から大変なものを見た気がする。
嫌な汗が止まらない。
式で挨拶したはずが、全っ然顔を覚えていないのは、ソウロしか目に入らない恋愛脳のせいだった。
アレン・ムケナインの気性、性格、好みについて。
脳筋一択のみ。
見た目ゴリラで身体もゴリラ、ついたあだ名はウッホ王子だが、外見に反して繊細な心を持っている。
初体験は18歳。
閨指導の人間の雌 (25)
好みは不明。しいて言うならバナナ……?
「………なんなのかしら、コレ」
基本情報の重苦しさから打って変わって、仮にも王子をゴリラたらしめ過ぎじゃない?
誤情報、じゃないわよね?
念の為、他の情報も読み込んでみれば、ウッホ王子が創作指揮を取ったバナナカフェは、安価で庶民の間で大人気。近日二号店をオープン予定とあった。
無いわ。
アレン様は無い。
庶民に慕われた良い人かも知れないけれど、ソウロ様と血縁関係を疑うゴリラそのものに、王女ニーナのターゲット外だった。
残るはあと一人。
ダレン・ムケナイン
ムケナイン国の第二王子。
年齢 26歳
正妻との間に二人、三人の側室との間に五人、五人の愛妾との間に八人の子を成している。ムケナイン国随一の種馬。
「……普通はいないのかしら……」
熟女好きの早漏にゴリラに種馬。
ムケナイン国の王家は碌でも無いが、次兄が種馬なのはまだ救いがあるかもしれない。
容姿が悪ければ例え王子といえど、何人もの令嬢を娶れるはずがないもの。
ダレン・ムケナインの気性、性格、好みについて。
年中発情期状態。
甘いマスクと甘い言葉で、どんな令嬢も陥落させる手腕は負け知らず。
初体験は 13歳
専属侍女の谷間にムラッとなって口説き落として致す。その侍女が最初の愛妾となる。
ストライクゾーンは広いが去る者は追わない。
「……悩むわね」
「どうされました?」
「あらミミ、帰って来てたのね。ゴリラはさておきダレン様に計画を持ちかけるべきか悩んでいるのよ」
「それなんですが……実は先程、後宮の前でダレン様にお会いまして。ニーナ様への招待状をお預かりしてしまったのです」
「招待状? 何かしら」
桃色一色のカードには、新しい家族となったニーナを歓迎する会、と銘打ちされている。
「え、今更?」
「ニーナ様は初夜で伏せっておいででしたし、アレは執務を丸投げで浮気三昧でしたので。アレが大人しくなった今が最適と考えたのかと。それか……」
「それか?」
「ダレン様はアレと違って熟女専門ではありません。沢山の妃がおりますが、種馬と噂だけあって致した令嬢の話しを聞き及んでいるのかも、と思いまして」
「なるほど。つまりミミは私が金銭でこの国の者を懐柔していることが知られている、と言いたいのね」
「はい」
危険視されているのかしら。
私との婚姻でソウロ様が王太子になったのは事実だし、大国の威を借りてソウロ様が好き放題してたのも事実だし、私が手広く懐柔したのも子の成せない後宮まで作っちゃったもんだから、婚姻より国を乗っ取るつもりで来たと思われてもおかしくない。
あらら、私ってば結構危うい立場?
ミミの指摘で王女ニーナは自身の計画はひとまず中止することにした。
これは歓迎会ならぬ腹の探り合いになりそうね。
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