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夫不在の歓迎会
王女ニーナは嫁ぐにあたり、大国の姫にも関わらず自国の人員は侍女ミミしか連れてこなかった。
国力の差に配慮した、と聞こえはいいが、ただ単に大所帯になれば移動が遅くなる、という理由に過ぎない。
本当に恋心とは厄介なものである。
こうして巡り巡って未来の自分を窮地に陥れるのだから。
「手荒なことしてごめんね。ほらウチって弱小国だから。卑怯な真似しないと大国の姫に敵わないでしょう?」
歓迎会は嘘だった。
ミミの危惧は大当たり。
桃色カードの招待状は果し状だったらしい。
今、王女ニーナは前後左右を妙齢の女性に囲まれている。
お供のミミは既に侍従らしき男に連れ出され、孤立無援の状態だ。
向かいでニコニコ笑う男、ソウロに似た素晴らしい容姿の持ち主、ダレンの指示によって。
「ムケナイン国の歓迎会は随分変わっているのですね。か弱い女をよってたかって痛ぶるつもりかしら」
「とんでもない。私は女性に優しいさ。それはここに居る妃達が知ってることだよ。でも、貴女がそう感じるなら妃達には出て行って貰うとしよう」
ダレンが手を鳴らすと部屋の扉が開かれる。
開いたのは大柄な体躯の逞しいゴリ、男性だ。
妃達はその男性に会釈しながら傍を通り抜けると、扉はパタリと閉められた。
「人数は減ったよ。これで貴女の不安は取れたはずだ。立ち話もなんだし、予定通り歓迎会を始めよう」
ダレンが優雅にソファを指し示す。
座れってことらしい。
ダレンはさっさとテーブルを挟んだ1人掛けのソファに座り、王女ニーナを待ち構えていた。
拒否したいが背後のゴリ、いいえウッホ王子ことアレンの存在に諦めた。
「さて、ニーナ。あ、義妹になるから呼び捨てでいいよね」
「構いませんが………その、」
「ああ、言いたい事は分かるよ。分かるけど今はスルーね。そうじゃないと本題に入れないから」
初恋が散って目覚めた大国の姫の矜持が砕けそうになっている。
この歓迎会がただの歓迎会じゃないことも想定していた。だからミミと離れ離れになることも、もしかしたら問答無用で拘束されることも覚悟していたのだ。
でもこれは、全く予想出来ないだろう。
王女ニーナが大人しく座ったことを見届けると、何故かウッホ王子ことアレン自らが給仕を行い、そして何故か窮屈そうに身を縮めて王女ニーナの隣りに腰を下ろしていた。
「私はね、ニーナ。兄上こそがこの国の王に相応しいと思っているんだ」
何処をどう見て? と言いたいが、ダレンの目に嘘がない。返答に困って黙っていれば、ウッホ王子ことアレンが吠えた。
「そう思っているのはダレン、お前だけだ。それに俺が王太子の座をソウロに渡したのはニーナのせいじゃない」
「ニーナのせいだよ。周囲に忖度させるバックがニーナにあったんだから」
「だとしても、それもニーナのせいじゃない。忖度という選択を下した我が国のせいだ」
これは一体なんなのかしら。
話の流れ的に、ダレン様はソウロ様が王太子に任命される原因となった私が許せなくて、アレン様はそうじゃないってこと?
普通、逆じゃないだろうか。
二人の言い合いをよそに、王女ニーナは恋で突き進んでしまった婚姻の結果が、やはり自身だけじゃなく周囲に要らぬ火種を撒いたことに胸が苦しくなった。
こんなつもりじゃなかったのに……
「ニーナ。私は知っているんだよ。貴女がソウロを見限ったことを」
「ダレン? 何を言ってるんだ」
「それに、ニーナが私か兄上に持ちかけようとした計画もね」
急にダレンから話しを振られ、しかもそれが図星も図星だった王女ニーナは、迷いながらも腹を決めることにした。
「私なりに懐柔してたつもりだったけれど、ダレン様の情報網には感服しますわ。ですが、計画については侍女のミミにもはっきりとは言っておりませんよ」
「そうだね。これは推測しただけだが合ってるはずだよ。ニーナは私か兄上、どちらかの子種が欲しいと思っている」
ソウロへの復讐も兼ねて。
付け足された言葉に観念した。
ダレン様は侮れない。
鋭い考察だが、一つだけ訂正させて欲しい。
ウッホ、んんんっアレン様じゃなく、ソウロ様に似たダレン様の子種が欲しいのだ。
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