恋は妄想だった

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恋は妄想だった

15歳の誕生日。 それが王女ニーナの運命の日だった。 祝いに訪れた隣国の王子ソウロに一目惚れしてしまった忌まわしき始まりの。 王子ソウロは垂れ目の優しい面立ち。 加えて王族らしく振る舞いも洗礼されている。 必要以上に異性との接触を制限された箱入り娘の王女ニーナは、そんな初対面の彼の容姿や態度に初心な乙女心を撃ち抜かれた。 初めての恋。 誰しも経験した感情は、大国の姫というバックボーンに支えられ不幸にも見事叶うのである。 想いは実を結んだ。 けれど、恋しい男は物理的に離れた場所で暮らす隣国の王子。 会えない日々に枕を濡らす王女ニーナは、自身の恋心、つまり初恋という抗い難い熱病に取り憑かれ、王族では異例の一年という短さで婚約期間を終了させた。 全ては大国であり強国の為せる技。 多額の持参金、贅を凝らした花嫁衣装、国民へ広く周知させるパレード、人生で迎える最初で最後の結婚式に、蝶よ花よと大切に育てられた王女ニーナは、嫁いだ隣国で、夫となった愛する男と共に、この先の未来は幸せに満ち溢れていると信じて疑わなかった。 痛いっ!! 痛い! 痛い! すっっっごく痛いわ!! 閨教育で知っていたとはいえ、あり得ない激痛に悶絶する王女ニーナ。 結婚式のあとは嬉し恥ずかし夫婦の初めての共同作業、初夜が待っていた。 夫に全てをお任せしなさい、と習った王女ニーナは、破瓜の痛みは知識と実際に体験することに天と地の差があり過ぎる、と思った。 だが、愛する男がもたらす痛みを耐えてこそ愛が深まるのよ、と自らを鼓舞し、脂汗と涙塗れになりながら初夜を乗り切ったのだ。 ほとんど気絶状態で寝たらしい。 目が覚めた時、既に夫の姿はなかった。 少し寂しくなったが、夫ソウロは大国の姫、王女ニーナと婚姻したことで王太子に任命されている。 職務が忙しいのだと、多忙な夫を思いやりながら自身の介助の為、ベルを鳴らした。 やって来たのは自国から連れてきた侍女のミミ。 ミミは部屋に入るなり主が無事初夜を終えたこと、これで名実共に恋しい男と結ばれたことへ祝いの言葉をかけようとしたが、目にしたものに眉を顰める。 「ミミ、どうしたの?」 「……ニーナ様、少し失礼します」 シーツに生々しく残る破瓜の痕。 昨夜の情事を示すそれに触れたミミは、手を濡らす鮮血に顔色を悪くした。 「医師をお呼びするので少々お待ち下さい」 初夜の後は診察するものなのね、と単純に思った王女ニーナは、内診を終え蒼白となった医師の説明に目を丸くする。 「ニーナ様の大事な部分は、酷い裂傷となっております。患部への塗り薬と痛み止め、このあと熱が出る事も予想されるので解熱剤も用意しておきましょう」 「まあ! 初夜後の世の女性は大変なのね!」 あれだけ痛かったのだから当然と言えば当然か、と王女ニーナが納得しかけた時、医師は喉奥から絞り出すように否定を告げた。 「いえ、ニーナ様。……破瓜の痛みはあれど、普通はここまでなりません。これは、こういった症例は……無体をされた、つまり、ご、強姦された女性の特徴です」 むたい……ごうかん……? 脳内で医師の言葉がリフレインする。 リフレインするだけで、理解が追いつかない。 横から経験済みの侍女ミミが、いつまでも破瓜の血が止まらないのは異常なこと、昨夜何があったか教えて欲しいと涙ながらに訴えられ、記憶のかけらを呼び起こす。 昨夜は……緊張して……ソウロ様の表情や様子を気にする余裕がなくて……夜着を捲られ……そのまま一気にズドンと…… 「ちょ、ちょっと待って下さいニーナ様っ! その前戯は、前戯はなかったのですか?!」 「ぜんぎ……? もしかして股にかけられた液体のことかしら」 王女ニーナの問いかけは侍女ミミの悲鳴と、気まずそうに語る医師の説明により解明したが、悲劇はそれだけに留まらなかった。 大国の姫だから娶っただけ。 後ろ盾となる駒に過ぎない。 愛していない。初心な女はつまらない。 散歩ついでに訪れた王宮の庭園で、美女を抱き寄せ妻である王女ニーナをこき下ろす夫の姿を目にし、外面だけで内面をまるっと無視していた事実を突きつけられたのだ。 初恋は散った。 妄想の恋だった。 この手痛い失恋は、恋に狂って自我を失っていた王女ニーナに、大国の姫という強烈な自尊心を呼び覚ます。 そこまで言うならば。 貴方の言葉通りにしてあげましょう。
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