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2-3
夜食の準備が済んだ。テーブルに並んでいるのは、サンドイッチ、トマトスープ、お茶だ。サンドイッチは多めに作ったから、半分は朝ご飯にするつもりだ。
黒崎は料理にうるさい。美味しいものを食べ続けたから、舌が肥えている。一緒に暮らすようになり、最初の頃は、俺が作る物は、何でも喜んで食べてくれた。でも、それは過去形だ。結婚後は遠慮なく文句を言うようになった。先日の事を思い出して、腹が立ってきた。
(サンドイッチのマスタード、入れすぎだ)
(そう?いつも通りかと思うけど。よく混ざっていなかったかも)
(ああ、分かったぞ。いつもと違うものを使ったのか)
(よく分かったね)
(舌に刺激が強すぎる。元に戻してくれ)
(勿体ないよ~。それに、遠くのスーパーにしか売っていないんだよ)
(明日、連れて行く。味噌も買え。適当に選ぶな。冷凍のネギを使っていただろう。生のネギがいい)
(忙しくてバタバタしてたんだよっ。それぐらい我慢しろよ~っ)
(家事代行サービスを使えと言っている。受験もある、体調のこともある。おまけに家事の手を抜かない。心配だ)
(黒崎さん……)
(一番の理由は、美味いものを食いたいからだ)
(照れ隠しだよね?)
(……違う)
遠慮がなくなったのは良い。ただし、無くなり過ぎるのは、どうかと思っている。
「夏樹」
「あ……」
この間のことを思い出して、ブツブツ文句を言っていると、後ろから口を塞がれた。いつものボディーソープの匂い。手から伝わる匂い。耳元で響いた声。黒崎はかっこいい。ドキドキする。でも、料理のことで文句を言われたときは、本気で嫌になってくる。でも、別れたいとは思わない。彼が可愛いと思うときもあるからだ。
「黒崎さん。早く食べてよー」
「文句はベッドで聞く。この間のことを怒っているんだろう」
「あんたが言い返してくるからだよ。また喧嘩になるからさ」
「今月は喧嘩をしていないぞ?最少記録だ」
「違うよ、3回だよ。あんたにとっては喧嘩じゃなくても、俺にとってはそうなんだよ」
「だったら直ぐに仲直りをしよう」
耳元に熱い息がかかった。耳を口の中に含まれて、舌を這わされた。耳たぶに歯を立てられた後、今度は首筋に唇が降りてきた。
「こらっ。早く食べて寝ろよ」
「仲直りが先だ」
「あ……」
黒崎のことを押しのけようとして、左の手首を掴まれた。そのまま傷跡にキスをされて、ペロリと舐められた。彼がやめようとしない。完全に酔っ払っているようだ。そして、壁に体を押し付けられた。このままだと睡眠時間が減ってしまう。黒崎は2時間半しか寝ていない。今夜こそは、しっかり寝てほしい。言って聞く人ではないから、逃げることにした。
「つれないことをするな」
「早くサンドイッチ食べろよっ」
「お前のことを食べたい。手早く済ませる」
「手早く済ますぐらいなら、抱くなよっ」
「30分じゃ満足してもらえないからな。ベッドでゆっくり抱くぞ?」
「ハッキリ言うな……。わっ」
隙をついて腕の中から抜け出したのに、手を引っ張られて、前に進まなかった。ジタバタやっているうちに、パジャマを脱がされてしまった。そして、長くて甘いキスをされながら、体を撫でられ始めて、抵抗する力をなくしてしまった。さらに鎖骨や胸元に強く吸い付かれた時、ピリッとした痛みが走った。
「もうすぐ検診を受けるのに……」
「その頃には消える」
「毎日付けるから意味がないよ」
「キスマークぐらい我慢しろ」
「やだよ」
「夏樹。もう忘れたのか?自覚しろと言ったはずだぞ」
「え……」
「お前は俺のものだ」
言葉の内容は強引なのに、甘くて優しい眼差しを向けられているから、腹が立たない。何も言えなくなっていると、耳元に息遣いを感じた。そして、易しく名前を呼ばれた。
「我慢したくない」
「早く夜食を食べようよ……」
「早くベッドへ行きたい」
甘く優しく耳元で囁かれた。愛されていることを感じることが出来る。どんどん体の熱が上がった。お互いの呼吸が同じものに感じ始めた時、囁かれた言葉に頷いた。愛しているという言葉だ。俺は返事の代わりにキスをした。すると、黒崎が素直に離れてくれて、ダイニングへ行ってくれた。その後、俺達は夜食を食べながら、今日の予定を話し合った。
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