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 夜食の準備が済んだ。テーブルに並んでいるのは、サンドイッチ、トマトスープ、お茶だ。サンドイッチは多めに作ったから、半分は朝ご飯にするつもりだ。  黒崎は料理にうるさい。美味しいものを食べ続けたから、舌が肥えている。一緒に暮らすようになり、最初の頃は、俺が作る物は、何でも喜んで食べてくれた。でも、それは過去形だ。結婚後は遠慮なく文句を言うようになった。先日の事を思い出して、腹が立ってきた。 (サンドイッチのマスタード、入れすぎだ) (そう?いつも通りかと思うけど。よく混ざっていなかったかも) (ああ、分かったぞ。いつもと違うものを使ったのか) (よく分かったね) (舌に刺激が強すぎる。元に戻してくれ) (勿体ないよ~。それに、遠くのスーパーにしか売っていないんだよ) (明日、連れて行く。味噌も買え。適当に選ぶな。冷凍のネギを使っていただろう。生のネギがいい) (忙しくてバタバタしてたんだよっ。それぐらい我慢しろよ~っ) (家事代行サービスを使えと言っている。受験もある、体調のこともある。おまけに家事の手を抜かない。心配だ) (黒崎さん……) (一番の理由は、美味いものを食いたいからだ) (照れ隠しだよね?) (……違う)  遠慮がなくなったのは良い。ただし、無くなり過ぎるのは、どうかと思っている。 「夏樹」 「あ……」  この間のことを思い出して、ブツブツ文句を言っていると、後ろから口を塞がれた。いつものボディーソープの匂い。手から伝わる匂い。耳元で響いた声。黒崎はかっこいい。ドキドキする。でも、料理のことで文句を言われたときは、本気で嫌になってくる。でも、別れたいとは思わない。彼が可愛いと思うときもあるからだ。 「黒崎さん。早く食べてよー」 「文句はベッドで聞く。この間のことを怒っているんだろう」 「あんたが言い返してくるからだよ。また喧嘩になるからさ」 「今月は喧嘩をしていないぞ?最少記録だ」 「違うよ、3回だよ。あんたにとっては喧嘩じゃなくても、俺にとってはそうなんだよ」 「だったら直ぐに仲直りをしよう」  耳元に熱い息がかかった。耳を口の中に含まれて、舌を這わされた。耳たぶに歯を立てられた後、今度は首筋に唇が降りてきた。 「こらっ。早く食べて寝ろよ」 「仲直りが先だ」 「あ……」  黒崎のことを押しのけようとして、左の手首を掴まれた。そのまま傷跡にキスをされて、ペロリと舐められた。彼がやめようとしない。完全に酔っ払っているようだ。そして、壁に体を押し付けられた。このままだと睡眠時間が減ってしまう。黒崎は2時間半しか寝ていない。今夜こそは、しっかり寝てほしい。言って聞く人ではないから、逃げることにした。 「つれないことをするな」 「早くサンドイッチ食べろよっ」 「お前のことを食べたい。手早く済ませる」 「手早く済ますぐらいなら、抱くなよっ」 「30分じゃ満足してもらえないからな。ベッドでゆっくり抱くぞ?」 「ハッキリ言うな……。わっ」  隙をついて腕の中から抜け出したのに、手を引っ張られて、前に進まなかった。ジタバタやっているうちに、パジャマを脱がされてしまった。そして、長くて甘いキスをされながら、体を撫でられ始めて、抵抗する力をなくしてしまった。さらに鎖骨や胸元に強く吸い付かれた時、ピリッとした痛みが走った。 「もうすぐ検診を受けるのに……」 「その頃には消える」 「毎日付けるから意味がないよ」 「キスマークぐらい我慢しろ」 「やだよ」 「夏樹。もう忘れたのか?自覚しろと言ったはずだぞ」 「え……」 「お前は俺のものだ」  言葉の内容は強引なのに、甘くて優しい眼差しを向けられているから、腹が立たない。何も言えなくなっていると、耳元に息遣いを感じた。そして、易しく名前を呼ばれた。 「我慢したくない」 「早く夜食を食べようよ……」 「早くベッドへ行きたい」  甘く優しく耳元で囁かれた。愛されていることを感じることが出来る。どんどん体の熱が上がった。お互いの呼吸が同じものに感じ始めた時、囁かれた言葉に頷いた。愛しているという言葉だ。俺は返事の代わりにキスをした。すると、黒崎が素直に離れてくれて、ダイニングへ行ってくれた。その後、俺達は夜食を食べながら、今日の予定を話し合った。
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