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13-2
午前8時。
大学のキャンパス前に到着した。途中で大きな街を通り過ぎたのに、ここは静かだと思ったら、そうでもなかった。門へ入って行く学生達の多さに圧倒されたからだ。今日は新入生を学部ごとに分けて手続きが行われる。今通っているのはみんな新入生だろう。そう思うと、目が回りそうだった。
門のそばで森本が待ってくれていた。車から降りようとすると、先に運転手さんが降りて、ドアを開いてくれた。その後のことだ。お礼を言って降りようとした時、気がそぞろになり、何かにつまずいてバランスを崩した。そして、転びそうになり、慌てて姿勢を直した。森本に見られてしまった。大丈夫かと声をかけられて、大丈夫だと答えた。初日から失敗しそうになり、顔が赤くなった。
「森本、おはよう~」
「おはよう。大丈夫だったか?お父さんは乗っていなかったな?」
「うん。車を用意してくれたんだ。ここに来る途中の駅が大きくて、ビックリしたよ」
「迷路みたいな駅だな。迷いそうだ。夏樹。あれが北館だ」
「わあ~。大きな建物だなあ。それにしても学生が多いね。誰か探しているのかな?俺達の後ろの方を見ているよ」
通り過ぎていく学生達が、俺と森本の後ろを眺めていた。待ち合わせだろうか。キョロキョロしているとまた転びそうになり、森本から気をつけろと注意された。
「学食があるからだろう。新入生はビュッフェが半額だそうだ。旗が立っているぞ」
「へえー。店の名前は『薄味』っていうのか~」
「本当に薄味だそうだぞ。剣道部の見学に来た時、先輩に連れて行ってもらったんだ。わりと空いているから、落ち着いて食べられるそうだ。本当に一人で大丈夫か?桜木さんが来てくれるまで待っているぞ?」
「平気だよ。後で合流しようね。とうとうだねーー」
森本は理学部だから、手続きする場所が違う。ここで別れることになる。手続きが終わった後、聡太郎が迎えに来てくれる。
「あ……」
「夏樹!」
どきどきしながら、今日の手続き会場である北館の出入り口を入った後、カーペットにつまづいて転んだ。朝からこんな調子だ。これからの大学生活を表しているようで、かっこ悪い。そばにいた救護担当の先輩達から介抱されて、法学部生の手続きフロアへ向かった。
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