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 上級生達が向こうの方に行ってしまった。すっかり歩きやすくなった道になったねと、聡太郎が言った。今日の案内は、お義父さんからも頼まれているそうだ。最初それを聞いた時、二人が知り合いだったことに驚いた。お義父さんが聡太郎のバイト先の花屋の常連客だそうで、よく話すようになったそうだ。俺の大学入学の話題が出て、俺と知り合いだと分かり、お義父さんが驚いていたそうだ。そして、俺も驚いたことがある。聡太郎が黒崎製菓のインターンシップに参加することになったそうだ。 「世間は狭いねーー」 「たまたま伊吹が迎えに来た時、黒崎社長が来ていたんだ。それで俺が夏樹君の大学入学の話をしたら、繋がりがあることが分かったんだよ。大企業の社長だとは知らなかったよ。黒崎製菓のインターン生にならないかって、社長から誘われて、やることにしたんだ。明後日が面接日だよ。営業企画部でやるから、黒崎さんと会う。先に会っておきたかったよ。でも、タイミングが合わなかった」 「大丈夫だよ。今日のことも安心していたよ。聡太郎君が付き添ってくれるからって」 「伊吹が話していたけど、黒崎さんとは気が合うそうだよ。どうしてだろう?」 「共通点があるからだよ。動物好き。堂々としている。人の心を読むけど、顔に出さない。優しいところも似ているよ」 「ありがとう。楽しみだよ」  聡太郎が笑った。彼は優しい人だ。初めて会った日に、転んで怪我をした膝の手当てをしてもらったことがある。子供に好かれる人だ。動物もすぐに懐く。さっきのように人波が消えていくけれど、本来はそういう人だ。俺は聡太郎のことが大好きだ。だから、バンドを組めて嬉しいと思っている。 「黒崎さんはバンドのことはOKだよね?黒崎社長が心配していたんだ。束縛が激しいからって」 「応援されているよ。カメラテストも受けるんだ」 「へえー、写真嫌いなのに?」 「うん。お義父さんの関係で誘われたんだよ。引っ込み思案と、人見知りを直したいし」 「引っ込み思案なのは分かるけど。人見知りじゃないと思うけどね。……はーい、学食へ到着。ここの2階だよ。メニューを見たかったんだだろう?」 「うん。どれも美味しそうなだなあ」  手続きの前に見かけた学食に寄ってもらった。薄味という店だ。一階の階段の登り口にメニューを置いてあり、さっそく開いた。俺達を通り過ぎて、数人が階段を上がって行くのが見えた。上級生達のようだ。  するとその時だ。聡太郎がスマホを見て、立ち止まった。久田君が近くに居るらしい。ここで合流することになったそうで、いきなりのことに、胸の鼓動が高鳴った。まだ心の準備ができていない。 「あれ?会いたがっていたのに……」 「緊張するから言うなよ……」 「そっか。話題を変えようか。ここの学食、イベリコ豚丼があるよ。おすすめだよ。数量限定だ。昼ご飯はここで食べようか。あれ?ああーー」 「ええ?わああ~」  するとその時だ。階段を降りて来ている学生のリュックが転げ落ちてきた。俺達の方に落ちてきている。慌てて受け止めに行き、聡太郎が上手にキャッチした。すると、その後で、悲鳴に近い声が聞こえてきた。その学生からだった。 「わあーーーーっ」 「わあああ~~」  その学生がバランスを崩しかけて階段から落ちそうになり、手すりに摑まっていた。このままでは転んでしまうだろう。彼のことを支えようと階段を駆け上がり、無事に座らせることに成功した。ホッと胸を撫で下ろす気分になり、一緒に座り込んだ。階段の下では、聡太郎が笑っている。 「あ、ありがとう!」 「いいんだよ。気にしないで。リュックの中の物、壊れていないといいけど」 「大丈夫だよー。書類しか入れていないから」 「そっか、良かった。あれ……」 「どうしたのーー?」  冷や汗をかいている男子学生を見た。見覚えがある。久田君で間違いない。ぼんやり見つめていると、俺のトートバッグも転がってしまった。それを久田君が取りに行き、また悲鳴を上げた。彼が手すりに頭をぶつけそうになったからだ。さらにそれを助けようとしてつまずき、俺は尻餅をついてしまった。聡太郎の方を見ると、笑っていた。 「はははは、仲が良くなったね」 「あれーー?桜木先輩、この子が夏樹君ですか?」 「そうだよ。見ての通りの子だから、よろしくね」 「はい!」  自己紹介をしようとすると、先に立ち上った久田君から右手を差し出された。俺はその手を取り、立ち上がった。久田君がヒマワリのような笑顔を浮かべている。バンドも大学生活も楽しいものになる。そういう予感がした。
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