13-5

1/1
前へ
/283ページ
次へ

13-5

 午前10時40分。  ドイツ語クラスの合流場合に向かっているところだ。久田君とはお互いに下の名前を呼び捨てにようという話になり、さっきから彼のことを『悠人』と呼んでいる。何の垣根も感じない。悠人の話が面白くて、俺もたくさん話した。聡太郎に連れられて階段を上がる間も、悠人と話し続けてた。悠人とは音楽の好みが合い、ベテルギウスというバンドのギタリストのファンだと知った。俺も好きな人だ。 「夏樹は引っ込み思案じゃないと思うよ?はっきり話しているし」 「そうかな。知らない人の前に行くと、緊張するんだ……」 「何を言えばいいのか気を遣うよね」 「悠人は大らかだね」 「俺さーー。そそっかしい分だけ、発言には気をつけているんだ。失敗することがあるからさ」 「俺もだよ。失言しそうになって後悔しているよ」 「こら、二人とも。沈んでいるよ?」 「はーーい」  お互いが失敗話をして沈み込んでしまった。聡太郎から笑いながら注意されて、別の話題に変えた。悠人に森本を紹介したい。黒崎のことも。お互いのことをまだよく知らないけれど、悠人とは遠慮することなく話せた。もちろん連絡先を交換した。すると、合流場合の421教室に到着した。聡太郎が先に着いていた先輩に声を掛けた後、俺達に教室に入るように行った。 「二人とも、先に教室へ入っていてね」 「はーい。夏樹、こっちだよ」 「わああ~」 「強かった?さあ、行こうねーー」  悠人から手を引かれて教室に入った。その時、彼の腕の力が強くて転びそうになってしまった。悠人は細身の体をしているけれど、俺より力が強いらしい。ギターを持つから、自然と筋肉が付いたのだと言っていた。 「どこに座るーー?」 「ここにしようよ」  自由に座っていいと言われたから、真ん中の端の方を選んだ。ここでも沢山の書類を受け取った。整理しながらバッグに入れていると、悠人から興味深々といった風に見つめられた。 「どうしたんだよ?」 「綺麗に入れているなあって思ったんだ。几帳面なんだねーー」 「うん。落ち着かないんだ。……ん?友達?」 「ううん、知らない子だよ。ちょっと待てよ、こっちに座っておけよ」  二人の男子学生はこっちに近づいて来ていた。そして、俺のことを見て、ひそひそと話している。目つきが悪いと思った。悠人もそう感じたようで、彼がバリケードのようになってくれた。こんなに守ってもらって申し訳ない。喧嘩をしないためだと言い聞かせて、カッコ悪いという気持ちを押し込んだ。
/283ページ

最初のコメントを投稿しよう!

113人が本棚に入れています
本棚に追加