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最終話
その日の夜のキスはいつものアンリと違った。
そろそろ就寝しようかと立ち上がったときに、珍しくアンリが「キスをしてもいい?」と聞いてきたのだ。
夜のキスはアンリのすきなタイミングでしてきたのに、許可を取るなんて久々だった。
「うん。」
イリスは目を閉じてその場に立ったままアンリを待った。
ゆるく腰に手をまわしてアンリはイリスにキスをした。いつもように触れるだけのキスは長く、いつものように呼吸が続くなったらイリスはアンリの胸をとんとんと叩いた。
「やっぱり鼻で呼吸できないや。さっきバレたけどキスはしたことなくて
……だから下手なの。」
いつもより苦しくて少し涙目になった自分をごまかすようにイリスは笑って言った。コバルトブルーの瞳が揺れる。
「初めてが治療でごめん。」
アンリは思い詰めた顔になる。責めたつもりはまったくないのに。
「ううん、アンリが初めてでよかったよ。」
アンリの胸の中でなら少しだけ恥ずかしい事も言える。もう一度目が合った瞬間、アンリはイリスに二度目のキスをしていた。
息ができる――とイリスは思った。その口づけはいつもの触れるだけのキスではなかった。息ができるのはイリスの唇が開いているからだ。熱い熱が口内に入ってくる。
「ふぅ、」
息が漏れる。その息まで食べられるのではないかとイリスは思った。
このキスは何?動揺したイリスが目を開けるとアンリの瞳はぎゅっと閉じられている。アンリが夢中でイリスを求めてくれている。
その事実にどうしようもなく嬉しくなってイリスは必死に受け入れた。
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