入院

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入院

随分長い距離を走った気がする 。 救急車の中でママに何度も質問をしたけれど 、 一言も答えてくれない。優希は諦めて窓の外の景色を見ていた。 やがて救急車は、大きな病院の救急車専用レーン に入り 、勢いよく バックドアが開いた。 「急患入ります」 ストレッチャーに乗せられて 、病院の廊下を移動する 。当然 注目も集まる。 恥ずかしい … しばらくいくと扉の上に『手術室』の表示が見えた。 私、これからどうなっちゃうんだろう 思わず 優希は不安で目を閉じた。すると、 「お待ちしておりました」 目の前で、聞き覚えのある魅力的な声がする。 恐る恐る 目を開けると、白衣を着た昨日の イケメン男性が、涼しい顔で目の前に立っていた。 どういうこと、 これ…… 「今からカウンセリングをします。 こちらへ」 呆然とする私を、彼は こじんまりとした診察室へ連れて行った。 「まるで医者みたいですね」 「昨日 医者と説明しましたが」 そう言って、彼は左胸の名札を指さした。 「あなたの主治医を担当する 『逢沢 守 』と  申します。何でも気軽にご相談ください」 あいざわ まもる…… 「お名前は 『なみかわ  ゆうき』さんで間違い  ないですね。治療の説明をさせていただきます。  今回は夫 『なみかわ だいすけ』さんの  浮気 調査から開始させていただきました。   本日 女性の部屋から朝帰りする姿を目撃できま  した。  また、 ご主人の車のカーナビの履歴より、高級  レストラン、アウトレットのお店の検索履歴も  確認できました。  しかし、これでは証拠として弱いので、引き続き  調査を続行いたします  本日は、これから食事を用意します。 メニュー  の中から、お好きなものを選んでください」 矢継ぎばやに説明されて、唖然とする優希だった。 「あの、浮気調査ってことですけど、昨日の今日  で、なんで、そこまで分かるんですか?」 「あなたと契約した後、僕が直接現地に向かいま  した。助かりました。相手の女性の家まで突き止  めるなんて、 お手柄です。  覚えていませんか?昨日、 高橋があなたを車で  送って行って、ご主人の車のスペアキーをお借り  りしてGPS をつけました。あなたは、 「協力は惜しまない」と言っていた、と聞いており  ますが」 そうだったっけ…… 記憶を必死に辿る。 確かに家の中で、ママに話しかけられた気がする 「紹介します、 私の助手の高橋です。  あなたのサポートをします」 水色の布のパーテーションの影から、 今度は白衣の姿をしたママが現れた。 「これからよろしく〜」 なるほどそういうことか 妙に感心していると 逢沢先生から数枚の書類を渡された。 「これ 支払いの契約書です。サインお願いします」 「はい……」 「あと、食事を選んだら、 病室も選んで下さい。  (注・ご家族の 見舞い時には、    このお部屋は使用できません)  足りないものがあったら、何でもご用意します」 食事? 部屋!? 「あなたはこれから入院するんです。  ご家族への連絡は、こちらからしておきます」 「あの 、ここまでやるんですか」 さすがに心配になり 、書類のサインを書く手が 止まる。すると 逢沢先生は、至極真面目な顔で 「1日100万頂いているんです。 当然です。  今日はゆっくり休んでくださいね 、それでは」 と、立ち上がり さっさと 部屋を出て行った。 「ちょちょちょっと待って」 呆気に取られて 逢沢先生を追いかけるが、すぐに高橋さんに、強引に椅子に引き戻された。 「さ、どれにします ?私のおすすめは  社長夫人のお部屋かな」 高橋さんは、部屋一覧が選べる パンフレットを 広げて楽しそうに説明してくれる。 とりあえず従おう 私は、かなり 投げやりな気分で、食事と部屋の パンフレットを眺め始めた。
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