美容外科 手術

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美容外科 手術

「おはようございます。 ご気分はいかがですか」 月曜日 、先月までの私は目覚まし時計で起こされ 洗濯をする。家族を送り出して、髪を振り乱しながらゴミ出しをする。 仕事に行く ギリギリまで家事に追われ 、すでに全身疲労状態で出勤する毎日をを過ごしていた。 それなのに 、今日の私は朝から医者の姿をした イケメン男性と、紅茶を飲みながら 優雅にお話をしている。 お金の力って偉大だ 「どうかしましたか ?何か質問でも」 「いえ、 別に」 私は並川 優希。 41歳。 普通の主婦 逢沢 守 先生は私の心の主治医 だ 先週 不倫の証拠を掴み、見事 夫を謝罪 に追い込んだ。私の病んだ心を治療してくれる、とても優秀なお医者様だ。ただし 治療費は1日100万円 。7日間 契約。1億の宝くじに当選した今だから支払える金額だと自覚している。 今は病院に入院している。いや 正しくは 別居中? あれこれ考えながら契約書にサインを終えると、 逢沢先生が、待ってましたとばかりに話し始めた。 「それでは 、本日の治療の説明を始めさせていた   だきます 。今週は不倫相手の慰謝料の請求に挑   みます 。相手の名前は」 「ゆいか!!」 「よくご存知で」 私の目の前で夫の大介とキスした女 この名前は生涯忘れない 口に出しただけで 、不愉快極まりない 「名前は 鬼頭ゆいか 29歳。  ご主人とは 1年前から同じ部署で働いています。    上司と部下の関係で派遣社員です。  独身でうちの系列の美容クリニックの常連さんで  した。美容に関し 、相当な知識を持たれた  見た目は美しい女性です」 あーそうですか 「他にも隔週でエステに通われ、自分磨きに余念が   ありません。美容に費やすお金も相当な額です。  かなりの 強者が相手です。優希さんしっかり   と準備をしましょう」 「準備って何?」 「ご主人との不倫を認めさせることが大事ですが  このタイプの女性は男性にも可愛がられて、  何より自分に自信があります。素直に過ちを  認めて謝罪することは皆無でしょう。元々  優希さんは十分なお金を持っています。どちらか   というと、 慰謝料の請求 より謝罪を目的と  されているのでは?  人の夫に手出しといて いい度胸してるじゃない   あやまんなさいよ 。あんた!みたいな…… 」 すっごいな  この人。私の本音 分かってる 「しかしながら今の優希さんでは、準備不足のため  対策を講じたいと思います」 「どういう意味」 「見た目ではかなわないと言っているのです」 あー悪かったですね  どうせ私はおばさんですよ 「中身ではあなたは素敵です。あの女など足元に  も及ばない。しかしながら20代を相手に40代  の見た目では、はっきり申し上げると不利な状況  です。  本日は、全身の美容外科手術を受けていただき  来たる 直接対決に備えます」 「美容手術? 整形 するの⁉」 「そこまで大げさではありません。 素材は生かし  ます。美容整形は 俗称 です。  正しくは 『美容外科』といい 自費診療です。  医学的に正常と考えられる外見をより美しく  します。  『形成外科』は外見が問題となる異常を医療  保険で治療します。  うちのクリニックは、形成外科専門医も配置して   おります。ご安心ください。  顔面の白いブツブツ(稗粒腫と言います)を取る  美容皮膚科の手術に加えて 皮膚の状態を改善  し、たるみやシワを 取り除きます」 そう言って、 逢沢先生は突然私の顔にペンで落書きをした。 「何するんですか‼」 私は烈火のごとく怒り出した。 「とりあえず気になる箇所に丸をつけました。  おでこの上と目の近く 特に気になるのは5箇所  くらいですね。レーザー治療ですぐ取れますよ。  それに年齢を重ねれば体型や肌の劣化は致し方  ありません 。  みんな綺麗で可愛いものが好きなんです。  考えてみてください、  子猫と、そこそこでかい母猫  あなたならどちらに餌を与えますか?」 もはや 反論の余地もない  むかつくわ ぐうの音も出ない 私を見て、 逢沢先生は 「それでは頑張りましょう」 と続けて 、私の顔にさらにペン入れをしていった 見てらっしゃい 私だって大金積んで、子猫のように若返ってやる! 優希は 、そう心に誓った。
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