それぞれの言い分

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それぞれの言い分

「君とはもう会わない」 手術の待ち時間に、病院の正面玄関にて大介は ゆいかへの返信を打ち終わり、 アドレスを削除した これでいい  終わったよ  優希 手術の控え室に戻るが 翔は俺を見ようともしない。 時間だけが過ぎていく、 気まずい雰囲気だ。 これからは 妻のこと  子供のこと しっかり考えていこう  大介はそう、心に誓いを立てた。 それから、とてつもなく長い時間が過ぎていき、 逢沢医師が手術室から出てきた。 俺は 椅子から立ち上がった。翔も心配そうに逢沢 医師の目を覗き込む。 「あの、妻は……」 「心配ありません。 手術は成功しました。ただ…  心臓の治療とはいえ、 体の影響も出ています。  顔のむくみや 全身の腫れ、 赤みが激しいです。  一時的なものとはいえ 、奥様の 痛々しい姿を  見たらショックを受けますよ。 心の準備を」 そう言われて連れて行かれた病室で優希の姿を見た 大介は、驚きのあまりその場で立ち尽くし、 声を失ってしまった。 たくさんの点滴の管につながれて、顔や体のいたるところにガーゼや 包帯を巻かれている妻。 所々が腫れ上がり 、ピクリとも動かない。 その姿を見て 翔の顔がみるみる 青ざめる。 「あれはいったい……」 「冷やすためのものです 。ご心配なく」 つい最近まで、あんなに元気そうだったのに…… もっと早く病気に気づいてやれば もっと早く 浮気をやめていれば もっとよく妻の話を聞いてやればよかった 大介の胸に後悔が押し寄せる。 「奥さんを大事にしてあげてくださいね」 逢沢医師の言葉が、さらに胸に突き刺さる。 「僕は 循環器系の心臓が専門ですが、同時に  心療内科も担当しております。奥様を引き続き   担当しますので、よろしくお願いいたします」 お願いします 、大介は小さな声でそういうのが 精一杯だった。
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