契約

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「え?」 優希は、一瞬、時が止まる。意味が分からない 「離婚ができますよ。お金があれば生活に困らない。  一億あれば大丈夫でしょう」 離婚…… 不倫されたら離婚してもいいんだ… そこまで考えてなかった 固まった優希に、男性はさらに語りかける。 「僕がお手伝いしますよ。  一人でも生き抜けるように」 「でも、私、子どもがいるんです。中学生の。  今年受験生なんです。離婚なんて……」 そう、私一人の問題じゃない。翔がいる。 やっぱり無理だよ。 優希は唇を噛み、目を伏せた。沈黙が流れる。 「それがあなたの答えですね。  では、あの絵を見て下さい」 重い空気を断ち切るかのように、男性が腕を上げて指さした先には、1枚の絵が壁に飾られていた。 真っ赤な炎の上で数匹の蛾が踊るように焼かれて いる。 まるで今の私みたいだ。 「あの絵は『炎舞』といいます。あなたには、どの  ように見えていますか。あの蛾は自分ですか?  心が焼けただれて、死んでしまいそうですか?」 ゆっくりと語りかけるような声。 私は座っているのか、絵の中で焼かれているのか分からなくなりそうだ。 「僕は、復讐で身を焦がす女性をたくさん見てきま  した。夫を限界まで追い詰める方、相手の女性の  職場に内容証明を送りつけて慰謝料を請求する  方、もっと修羅場もありました。  けれど皆さん、間違えています。  復讐の炎は消えません。心が傷ついたままだから。  自分自身が立ち直らなければ、  本当の意味での復讐にはなりませんよ」 男性の目の中に私の姿が写る。距離が近づく。 もう目が離せない。 「あなたには治療が必要ですね。  僕、医者なんです。僕と契約しませんか? 『夫とは離婚しない。しかし、夫と不倫相手には  復讐したい』  この難病、必ず治療してあなたの笑顔を取り戻し  てみせますよ」 「そんなこと、できるんですか⁉」 優しい笑顔に、優希は半信半疑で問いかける。 できることなら、そうしたいっ! 全身が震える。 「私っ、あのぜひっ」 「治療費は一日、100万です」
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