契約

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「は……」 「かなりの難病ですから、それぐらい必要ですね。  今のあなたなら、幸い支払い能力があります」 体の力が抜けていく。 詐欺だ ナンパ男の話なんて 真面目に聞くんじゃなかった バカバカしい 。くじの話なんてしなきゃよかった 私は心底 後悔した。急に現実に引き戻された気分 「おや、 僕は本気ですが」 「随分高いんですね 」 睨みつけながら嫌味のつもりで言ってやったが、 男性は全くこちらを気にせず話し出す。 「契約は1週間単位です 。月曜日 0時に契約して  から7日間 、あなたのために全力を尽くします。  現在、日曜の深夜11時50分です 。  どうされますか?」 妙に真剣な顔に、腹が立つ。 そっか、 私 一億持ってるもんな。 700万 なんか 大したことないか…… さっき飲んだ 、レッドアイの 酔いが回ってきたのだろうか 。一度に色々なことが起こりすぎて どうでもよくなってきたのか、 「いいわ 、1週間お試ししてあげる」 私の口から、とんでもない 返事が飛び出していた 「承知しました。 では契約のキスを」 これまた、とんでもない答えが返ってきた。 「は ⁉何言ってんの 。そんな セクハラまがいの  ことできるわけないでしょう 。  ちょっと顔がいいからってバカにしないでよ!」 「もちろん 、キスは唇です」 く……くちびる? 男性の突然の提案に、自分が動揺しているのが分かる。 キスなんて、もう何年もしていないのだから 店内の、ろうそくの灯った 明かりが ゆっくりと 揺れて 、『炎舞』の絵画を映し出す。 その明かりに視線を落としていた男性が、私に 鋭い視線を投げつけた。 「この程度の覚悟もないのなら 復讐 なんておやめなさい 。夫にくじのことを知られる前に さっさとお逃げなさい。 自分が無傷でいられる 復讐 なんてこの世にありえないのだから」 男性の見下すような目に、私の全身の血が燃えた 「誰が 逃げる って ⁉私が今日どれだけ傷ついたか  分かってんの 。毎日毎日 家族のために生きて、   やりたいことも 我慢して…  私が何したっていうの。   私は悪くない。   不倫した方が悪いに決まってるでしょ⁉」 何だってやってやるわ 「その気合い 誠に結構です 。私は動きません。  あなたからキスを」 一歩ずつ 優希は彼に近づいた。 端正な顔立ち、 心地よい香水の香り。 意外にがっしりした彼の肩に手を置く。 本当に微動だに動かない。 キスってどうするんだったっけ…… 私からするのって、もしかして人生始めてかも そっと彼の唇に唇を重ねた 「契約成立です」 ああ、やっぱり 声もイケメンだ…… 薄れゆく意識の中で、唇の感触だけがはっきりと残っていた。
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