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 円に続いて店内へ足を踏み入れると、ディスプレイされた着物の色鮮やかさに圧倒された。  赤、ピンク、オレンジなどの暖色系から、青、緑、紫などの寒色系、白や黒のモノトーン、ベージュや茶色などのアースカラーまで、ありとあらゆる色味の着物が所狭しと並べられている。柄も豊富な種類があり、無地はもちろん、紋、花、生き物、扇など、たくさんあって目移りしてしまう。男性物の着物はシックな色合いのものが多く、女性物の派手さや艶やかさがより際立って見えた。 「うわぁ……!」  あまりの美しさに言葉を失う。浴衣はともかく、着物なんて七五三参りで着て以来だ。浮世離れした空間の絢爛さにため息が出る。こんな美しい着物を着て街を歩いたら、きっと別世界にトリップしたような気持ちになるのだろう。わくわくが止まらない。 「そういえば、雪乃さん」  目をキラキラさせて着物を眺めている雪乃に、円が思い出したように声をかけた。 「今年、成人式ですよね?」 「そうなんです。母の振袖があるので、それを着ます」 「あら、どうしてよ」  円の隣で、時雨が不服そうに顔をしかめた。 「お母様のための振袖があなたにも似合うとは限らないわ。あなたにはあなたの、あなたにしか似合わない色や柄があるものよ」 「いえ、いいんです、私は母の物で。色もグリーンで嫌いじゃないし、袖を通してみましたけど、あれで十分かなって」 「ダメよ!」  納得できないらしく、時雨は頑として引こうとしない。 「あなたねぇ、成人式は一生で一度しか経験できない貴重なひとときなのよ? 他のものと比べもしない、そんな適当な決め方で晴れ着を選ぶなんてあり得ないわ」 「いや、私は……」 「いらっしゃい」  ついに時雨は雪乃の腕を掴み、奥の試着室へと強引に連れて行った。 「あなたのための最高の一着、私が見立ててあげる」
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