エピローグ

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「よかったですね、雪乃さん」  円が雪乃の頭を撫でる。 「きっと立派に成長しますよ、零は」 「はい、きっと」  夏の風が、ふたりの髪をそっと揺らす。  想像していたのとは少し違ったけれど、心を込めて受け持った生徒が、ひとり、雪乃のもとから巣立っていった。  どんな姿で、零はこの山へ帰ってくるだろう。見違えるほど男らしくなっているかもしれない。苦労していた人への変化(へんげ)も、あるいは完璧にできるようになっていたりするのだろうか。  さようならではない。しばしの別れだ。終わりではなく、零の未来は、ここから始まる。 「私もがんばらなくちゃ」  零が立派な姿で帰ってくるのなら、負けてはいられない。円のもとで、一人前の教師になれるよう精いっぱい努力する。 「負けないからね、零くん」  零の夢が走り出した。雪乃の夢も、この場所から再スタートを切る。  雨露を多分に含んださわやかな森の香りに、背筋がピンと伸びる思いがした。  亡き両親から受け継ぎ、円が懸命に守り続けてきた、人間との穏やかな共存を望むあやかしたちのための塾、『結』。賑やかであたたかなこの学び舎で、また一つ、人間とあやかしの良きご縁が結ばれた。  雪乃と零。たとえ遠く離れていても、ふたりの心はいつだってつながっている。  【あやかし専門学習塾・結 ~女子大生と半妖の狼~/了】
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