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撮影が終わるころには、すっかりあたりが夕闇に染まっていた。昼間の暑さもやっと和らいできたところだ。きっちりとメガネでガードして、わたしはスタジオを出る。
「エナ、おつかれさま」
「お父さん!」
駐車場でお父さんが手を振っていた。モデルだったお母さんはきれいだったけど、そんなお母さんと結婚したお父さんも、イケメンだ。ぎゅーっと抱きついてから、わたしはランドセルを差し出した。
「お父さん、ランドセルお願い!」
「ああ。……それにしてもエナ、あの子はエナの知り合いかな?」
「え?」
お父さんは首をかしげて、指をさす。その方向を見たわたしは、うげっと顔をゆがめた。
「三条ソウマ! なんでここに!」
まさかの出待ち!
「も、もしかして、ストーカー⁉ わ、どうしよう、お巡りさーん!」
「ちがう! 人聞きの悪いことを言うな!」
おっと、三条くん、そんな大きい声も出るのか。
「大丈夫、冗談だよ。さすがにクラスメイトを警察には突き出さないって」
「そ、そうか……」
三条くんはこほんと咳払いして、メガネの位置を直した。
「おれはただ、学校だとさけられているから、話す機会をうかがっていただけだ」
「……それを、ストーカーって言うんじゃ」
「だから、ちがうと言っているだろう!」
あ。あせっている三条くん、ちょっと面白いかも。
「だから、冗談だってば」
くすくす笑うと、三条くんはびくっとおびえたように警戒して後ずさった。
「と、とにかく、また面倒なことになっていないか、確認しに来たんだ。その、撮影ということはメガネを取るだろうし、心配で」
お父さんにマジモノの話を聞かれるのを防ぐためか、三条くんは小声になった。
(……なんだ、心配してくれたんだ)
「大丈夫だよ。ひととは目を合わせないようにしてるし」
「そうか、それならいい。車で帰るなら、もう心配もなさそうだし――」
「あ、ううん。わたしは走って帰るよ」
「は?」
言っている間に、お父さんはわたしのランドセルだけ乗せて、車を発進させた。窓からひらひらと手を振ってくるから、わたしもぶんぶん振り返す。
「ま、待て。走って、帰るのか?」
「そだよ。家までは二駅分くらいだから、ぜんぜん余裕」
軽くストレッチして、走る準備をする。運動前の準備は大事。怪我しちゃうからね!
三条くんは、なんでか、あっけにとられて、わたしを見ていた。でも、覚悟を決めたように口を開く。
「……おれも、いっしょに行く」
「えええ?」
わたしはきょとんと三条くんを見る。
「ひとりだと危ないだろう。家まで送る」
「いやべつに、大丈夫だよ」
「ダメだ。ほうっておけない。また物の怪が暴走されたら厄介だ」
「マジモノね」
「……その軽い呼び方、おれは使わないぞ」
あきれたように言って、三条くんもストレッチをはじめた。なんか、けっこう優しいっぽい? 男の子に家まで送ってもらうなんて、はじめてだ。
まあ、そこまで言うなら、いっか!
「じゃ、レッツゴー!」
わたしは笑って走り出した。
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