第四章 全力ダッシュで距離接近?

2/5

18人が本棚に入れています
本棚に追加
/48ページ
 撮影が終わるころには、すっかりあたりが夕闇に染まっていた。昼間の暑さもやっと和らいできたところだ。きっちりとメガネでガードして、わたしはスタジオを出る。 「エナ、おつかれさま」 「お父さん!」  駐車場でお父さんが手を振っていた。モデルだったお母さんはきれいだったけど、そんなお母さんと結婚したお父さんも、イケメンだ。ぎゅーっと抱きついてから、わたしはランドセルを差し出した。 「お父さん、ランドセルお願い!」 「ああ。……それにしてもエナ、あの子はエナの知り合いかな?」 「え?」  お父さんは首をかしげて、指をさす。その方向を見たわたしは、うげっと顔をゆがめた。 「三条ソウマ! なんでここに!」  まさかの出待ち! 「も、もしかして、ストーカー⁉ わ、どうしよう、お巡りさーん!」 「ちがう! 人聞きの悪いことを言うな!」  おっと、三条くん、そんな大きい声も出るのか。 「大丈夫、冗談だよ。さすがにクラスメイトを警察には突き出さないって」 「そ、そうか……」  三条くんはこほんと咳払いして、メガネの位置を直した。 「おれはただ、学校だとさけられているから、話す機会をうかがっていただけだ」 「……それを、ストーカーって言うんじゃ」 「だから、ちがうと言っているだろう!」  あ。あせっている三条くん、ちょっと面白いかも。 「だから、冗談だってば」  くすくす笑うと、三条くんはびくっとおびえたように警戒して後ずさった。 「と、とにかく、また面倒なことになっていないか、確認しに来たんだ。その、撮影ということはメガネを取るだろうし、心配で」  お父さんにマジモノの話を聞かれるのを防ぐためか、三条くんは小声になった。 (……なんだ、心配してくれたんだ) 「大丈夫だよ。ひととは目を合わせないようにしてるし」 「そうか、それならいい。車で帰るなら、もう心配もなさそうだし――」 「あ、ううん。わたしは走って帰るよ」 「は?」  言っている間に、お父さんはわたしのランドセルだけ乗せて、車を発進させた。窓からひらひらと手を振ってくるから、わたしもぶんぶん振り返す。 「ま、待て。走って、帰るのか?」 「そだよ。家までは二駅分くらいだから、ぜんぜん余裕」  軽くストレッチして、走る準備をする。運動前の準備は大事。怪我しちゃうからね!  三条くんは、なんでか、あっけにとられて、わたしを見ていた。でも、覚悟を決めたように口を開く。 「……おれも、いっしょに行く」 「えええ?」  わたしはきょとんと三条くんを見る。 「ひとりだと危ないだろう。家まで送る」 「いやべつに、大丈夫だよ」 「ダメだ。ほうっておけない。また物の怪が暴走されたら厄介だ」 「マジモノね」 「……その軽い呼び方、おれは使わないぞ」  あきれたように言って、三条くんもストレッチをはじめた。なんか、けっこう優しいっぽい? 男の子に家まで送ってもらうなんて、はじめてだ。  まあ、そこまで言うなら、いっか! 「じゃ、レッツゴー!」  わたしは笑って走り出した。
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加