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いつもひとりで走ってるから、だれかといっしょなのって新鮮だ。ちょっとウキウキしている。と思っていると、後ろから三条くんが叫んだ。
「はやいな、九重さん⁉」
「え、そう?」
振り向いて、三条くんを確認する。
「もうちょい、ゆっくり走る?」
「……いや、おどろいただけだ。問題ない!」
三条くんはちょっと眉をひそめて叫び、わたしに並んだ。意外と三条くん、負けず嫌いなのかもしれない。でもわたしだって、負けるのはいやだもんね!
「じゃ、もっとはやくしちゃうよー!」
「なに⁉」
ニッと笑って、わたしはスピードを上げた。三条くんも負けじとついてくる。おかげで、いつもより、家に着くのはずっとはやかった。その分、疲れたけど。三条くんも肩で息をしてるし。
「わたしについてくるとは、やるね、三条くん」
がんばってたから、ご褒美あげちゃおっかな。
わたしは家に入ってキッチンへ。先に帰っていたお父さんに「ただいま」と声をかけてから、スポーツドリンクをコップに注ぐ。暑いから氷もいっぱい入れて、玄関にいる三条くんのもとまで戻った。
「はい、飲んで」
「あ、ありがとう……」
ぜえぜえ言いながら、ドリンクを一気飲みする三条くんは、うっとうしそうにメガネを取って汗を拭う。見えるのは、イケメンな素顔。
どきっとして、わたしはあわてて目をそらす。
(……ずるい。そんなダサいメガネしておいて、かっこいいとか)
いや、それはわたしもか。メガネはずしたら、あら美少女、だもん。
「三条くんさ、コンタクトにしたら?」
わたしのダサいメガネは、ひとと目が合わないようにするためのものだから、はずせない。でも三条くんはコンタクトにしたほうが絶対いいよ。
わたしとのキャラ被りも防げるし。
でも三条くんは「いや……」と言いづらそうに目をそらす。
「なに?」
「コンタクトは、その……、……だから……」
ずばっと発言する三条くんにしては、ぼそぼそとした小声。
「え? なんて?」
「……だから、コンタクトは痛そうだから、無理だ!」
へ? 痛そう?
まさかの答えに、わたしはぷっと噴き出した。
「痛くないでしょ。みんなしてるんだし」
「だ、だが、あんな、異物を目に入れるなんて!」
「異物って。あはは、なにそれ!」
絶対無理と首をぶんぶん振る三条くんに、わたしはつい笑い声を上げてしまう。三条くんはむっとしたけど、もう一度ドリンクを飲んで、ふうとため息をついた。
「すごいな、九重さんは」
「あはは、異物……へっ? え、なに? なんて言った?」
「そろそろ笑いやんでくれ」
「ごめんごめん」
「……あれだけ走って、爆笑する元気があるとは、すごいと言っているんだ」
「そう?」
「おれも身体を鍛えているはずなのに、エナさんに追いつけなかった」
ちょっとくやしそうな三条くん。やっぱり負けず嫌いだな。
「まあ、わたしは、いつも走ってるからね」
うーん、と伸びをしてわたしは言う。
「モデルは身体づくりが大事だもん。朝と夕方、走るようにしてるんだ」
「朝? あ、まさか登校前か?」
「そだよ~」
だからつい、教室に着くのがギリギリになっちゃうんだけどね。あと朝から汗だくだし。それでも、母さんがしていたって聞いたから、真似してるんだ。
三条くんは目を丸くする。
「努力しているんだな。意外だ。九重さん、能天気そうなのに」
の、ノーテンキ⁉
「……ねえ、三条くんさ、ちょいちょい失礼だよね」
「む。そうか? それはすまない」
無自覚か!
「ていうか、九重さんじゃなくて、エナでいいよ? 九重って長いでしょ」
「うむ……では、エナさんで。ドリンク、ありがとう。邪魔をした」
「あ、もう帰るの? お父さんに車で送ってもらおうか?」
「いや、問題ない。それほど家は遠くないから」
そう言って、三条くんは出て行こうとする。
(……なんか、ちょっともったいないな)
そう思ってしまう自分が、それこそ意外だった。なんだこいつって思うこともあるけど、今日の三条くんといっしょにいるのは、けっこう楽しかったんだよね。心配してくれたし。いいやつなのかも?
「ねえ三条くん。スマホ持ってる?」
「ん? ああ」
「連絡先、交換しない?」
わたしはポケットからスマホを出して揺らした。すこしだけ緊張しているわたしに、自分でびっくりした。
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