第四章 全力ダッシュで距離接近?

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 いつもひとりで走ってるから、だれかといっしょなのって新鮮だ。ちょっとウキウキしている。と思っていると、後ろから三条くんが叫んだ。 「はやいな、九重(ここのえ)さん⁉」 「え、そう?」  振り向いて、三条くんを確認する。 「もうちょい、ゆっくり走る?」 「……いや、おどろいただけだ。問題ない!」  三条くんはちょっと眉をひそめて叫び、わたしに並んだ。意外と三条くん、負けず嫌いなのかもしれない。でもわたしだって、負けるのはいやだもんね! 「じゃ、もっとはやくしちゃうよー!」 「なに⁉」  ニッと笑って、わたしはスピードを上げた。三条くんも負けじとついてくる。おかげで、いつもより、家に着くのはずっとはやかった。その分、疲れたけど。三条くんも肩で息をしてるし。 「わたしについてくるとは、やるね、三条くん」  がんばってたから、ご褒美あげちゃおっかな。  わたしは家に入ってキッチンへ。先に帰っていたお父さんに「ただいま」と声をかけてから、スポーツドリンクをコップに注ぐ。暑いから氷もいっぱい入れて、玄関にいる三条くんのもとまで戻った。 「はい、飲んで」 「あ、ありがとう……」  ぜえぜえ言いながら、ドリンクを一気飲みする三条くんは、うっとうしそうにメガネを取って汗を拭う。見えるのは、イケメンな素顔。  どきっとして、わたしはあわてて目をそらす。 (……ずるい。そんなダサいメガネしておいて、かっこいいとか)  いや、それはわたしもか。メガネはずしたら、あら美少女、だもん。 「三条くんさ、コンタクトにしたら?」  わたしのダサいメガネは、ひとと目が合わないようにするためのものだから、はずせない。でも三条くんはコンタクトにしたほうが絶対いいよ。  わたしとのキャラ被りも防げるし。  でも三条くんは「いや……」と言いづらそうに目をそらす。 「なに?」 「コンタクトは、その……、……だから……」  ずばっと発言する三条くんにしては、ぼそぼそとした小声。 「え? なんて?」 「……だから、コンタクトは痛そうだから、無理だ!」  へ? 痛そう?  まさかの答えに、わたしはぷっと噴き出した。 「痛くないでしょ。みんなしてるんだし」 「だ、だが、あんな、異物を目に入れるなんて!」 「異物って。あはは、なにそれ!」  絶対無理と首をぶんぶん振る三条くんに、わたしはつい笑い声を上げてしまう。三条くんはむっとしたけど、もう一度ドリンクを飲んで、ふうとため息をついた。 「すごいな、九重さんは」 「あはは、異物……へっ? え、なに? なんて言った?」 「そろそろ笑いやんでくれ」 「ごめんごめん」 「……あれだけ走って、爆笑する元気があるとは、すごいと言っているんだ」 「そう?」 「おれも身体を鍛えているはずなのに、エナさんに追いつけなかった」  ちょっとくやしそうな三条くん。やっぱり負けず嫌いだな。 「まあ、わたしは、いつも走ってるからね」  うーん、と伸びをしてわたしは言う。 「モデルは身体づくりが大事だもん。朝と夕方、走るようにしてるんだ」 「朝? あ、まさか登校前か?」 「そだよ~」  だからつい、教室に着くのがギリギリになっちゃうんだけどね。あと朝から汗だくだし。それでも、母さんがしていたって聞いたから、真似してるんだ。  三条くんは目を丸くする。 「努力しているんだな。意外だ。九重さん、能天気そうなのに」  の、ノーテンキ⁉ 「……ねえ、三条くんさ、ちょいちょい失礼だよね」 「む。そうか? それはすまない」  無自覚か! 「ていうか、九重さんじゃなくて、エナでいいよ? 九重って長いでしょ」 「うむ……では、エナさんで。ドリンク、ありがとう。邪魔をした」 「あ、もう帰るの? お父さんに車で送ってもらおうか?」 「いや、問題ない。それほど家は遠くないから」  そう言って、三条くんは出て行こうとする。 (……なんか、ちょっともったいないな)  そう思ってしまう自分が、それこそ意外だった。なんだこいつって思うこともあるけど、今日の三条くんといっしょにいるのは、けっこう楽しかったんだよね。心配してくれたし。いいやつなのかも? 「ねえ三条くん。スマホ持ってる?」 「ん? ああ」 「連絡先、交換しない?」  わたしはポケットからスマホを出して揺らした。すこしだけ緊張しているわたしに、自分でびっくりした。
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