第五章 メガネ・パニック!

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 え、うそ、まじ⁉  ボールが当たったときに、メガネが吹き飛んだらしい。あわててみんなと目が合わないようにうつむいて、床を探す。  メガネ、メガネ、メガネ……! 「あ、あった! けど、うそでしょ……!」  やっと見つけたメガネは、ぱりん、とレンズが割れていた。さっと顔から血の気が引く。  メガネがないと、ここにいるみんな、わたしに愛の告白はじめちゃうんだけど⁉ 告白の大渋滞! 大乱闘⁉ ひとりでも大変なのに、こんな大勢相手にするの、無理だよ!  ど、どうしよう……! 「エナさん」 「へっ、三条くん⁉」  ふいに三条くんの声がして、わたしの視界がぐにゃりとゆがんだ。んんんっ⁉ 「おれのメガネを貸そう」  そうささやかれて、わたしは三条くんのメガネをかけさせられたんだって、気づく。 「……度、きっつ!」  思わず叫んだ。世界が、世界がゆがんでいる……! 「三条くん、目悪すぎ」 「我慢しろ。おれも、ここにいる全員をマジモノの影響から助けるのは無理だ。それで一日乗り切ってくれ」 「え。でも三条くんは大丈夫なの?」 「……なにも見えん」  ダメじゃん。  わたしは、メガネをちょっとずらして、三条くんを見上げる。三条くんは、イケメンな顔を、ぐぬぬ……とゆがませていた。やば、面白いよ、その顔。 「……なにを笑っている、エナさん」 「ご、ごめ……だって、その顔……ふふっ」  三条くんは不思議そうに首をかしげる。そのときだ。後ろで、みんなが、ざわざわしていることに気づいた。 「え、三条くんがメガネ取るの、はじめて見た!」 「めっちゃイケメンじゃん!」 「なんだよ、ダサいメガネコンビ、どっちも素顔が美形ってこと⁉」  わたしは、みんなを見回した。みんな三条くんの素顔にびっくりして、見とれてる。女の子の中には、ぽっと赤くなっている子もいる。 (……なんだろう)  心がちくっとした。  三条くんの素顔知ってるの、わたしだけだったのになあ。あと、それから。 「……三条くん」 「なんだ? ……わっ」  むぎゅっ。三条くんの顔を両手ではさむ。 「三条くん。今日は、わたしだけ見てて」 「ふぁ?(は?)」 「ほかの子見ちゃダメだからね! わたしのかわいい顔だけ見てて!」 「いひゃ、いみわかひゃんが(いや、意味わからんが)」 「いいから、そうするの!」  素顔の三条くんと目が合ったら、女の子たちは三条くんのこと好きになっちゃうかもしれない。  それはダメだ。だって……。 「目が合ったら恋に落ちるのは、わたしがもうやってるの! キャラ被りやだ!」 「えにゃしゃん……?(エナさん……?)」 「ただでさえ、メガネはずしたらあら美形、で被っちゃってるんだから! これ以上わたしの個性とらないでーっ!」  モデルだってね、みんなキャラが被らないように気を使ってるんだよ! 同じような個性のモデルばっかりじゃ、画面映えしないでしょ。みんな、自分にキラッと光る個性を武器に、お仕事してるの!  こんなところで三条くんと個性被ってたまるか! 「わかった⁉ 今日はわたしだけ見ること!」 「ふぁ、ふぁかった!(わ、わかった!)」 「よろしい!」  ふう、とひといき。  三条くんの素顔にきゃあって騒いでいる子たちを見て、わたしは心の中で、べっと舌を出した。
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