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え、うそ、まじ⁉
ボールが当たったときに、メガネが吹き飛んだらしい。あわててみんなと目が合わないようにうつむいて、床を探す。
メガネ、メガネ、メガネ……!
「あ、あった! けど、うそでしょ……!」
やっと見つけたメガネは、ぱりん、とレンズが割れていた。さっと顔から血の気が引く。
メガネがないと、ここにいるみんな、わたしに愛の告白はじめちゃうんだけど⁉ 告白の大渋滞! 大乱闘⁉ ひとりでも大変なのに、こんな大勢相手にするの、無理だよ!
ど、どうしよう……!
「エナさん」
「へっ、三条くん⁉」
ふいに三条くんの声がして、わたしの視界がぐにゃりとゆがんだ。んんんっ⁉
「おれのメガネを貸そう」
そうささやかれて、わたしは三条くんのメガネをかけさせられたんだって、気づく。
「……度、きっつ!」
思わず叫んだ。世界が、世界がゆがんでいる……!
「三条くん、目悪すぎ」
「我慢しろ。おれも、ここにいる全員をマジモノの影響から助けるのは無理だ。それで一日乗り切ってくれ」
「え。でも三条くんは大丈夫なの?」
「……なにも見えん」
ダメじゃん。
わたしは、メガネをちょっとずらして、三条くんを見上げる。三条くんは、イケメンな顔を、ぐぬぬ……とゆがませていた。やば、面白いよ、その顔。
「……なにを笑っている、エナさん」
「ご、ごめ……だって、その顔……ふふっ」
三条くんは不思議そうに首をかしげる。そのときだ。後ろで、みんなが、ざわざわしていることに気づいた。
「え、三条くんがメガネ取るの、はじめて見た!」
「めっちゃイケメンじゃん!」
「なんだよ、ダサいメガネコンビ、どっちも素顔が美形ってこと⁉」
わたしは、みんなを見回した。みんな三条くんの素顔にびっくりして、見とれてる。女の子の中には、ぽっと赤くなっている子もいる。
(……なんだろう)
心がちくっとした。
三条くんの素顔知ってるの、わたしだけだったのになあ。あと、それから。
「……三条くん」
「なんだ? ……わっ」
むぎゅっ。三条くんの顔を両手ではさむ。
「三条くん。今日は、わたしだけ見てて」
「ふぁ?(は?)」
「ほかの子見ちゃダメだからね! わたしのかわいい顔だけ見てて!」
「いひゃ、いみわかひゃんが(いや、意味わからんが)」
「いいから、そうするの!」
素顔の三条くんと目が合ったら、女の子たちは三条くんのこと好きになっちゃうかもしれない。
それはダメだ。だって……。
「目が合ったら恋に落ちるのは、わたしがもうやってるの! キャラ被りやだ!」
「えにゃしゃん……?(エナさん……?)」
「ただでさえ、メガネはずしたらあら美形、で被っちゃってるんだから! これ以上わたしの個性とらないでーっ!」
モデルだってね、みんなキャラが被らないように気を使ってるんだよ! 同じような個性のモデルばっかりじゃ、画面映えしないでしょ。みんな、自分にキラッと光る個性を武器に、お仕事してるの!
こんなところで三条くんと個性被ってたまるか!
「わかった⁉ 今日はわたしだけ見ること!」
「ふぁ、ふぁかった!(わ、わかった!)」
「よろしい!」
ふう、とひといき。
三条くんの素顔にきゃあって騒いでいる子たちを見て、わたしは心の中で、べっと舌を出した。
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