第五章 メガネ・パニック!

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 体育のあとの授業は、大変だった。  わたしと三条くんは、いつもの席から黒板の真ん前の席に移動した。そうじゃないと、メガネをはずした三条くんは、黒板の字をまったく読めなかったからだ。  なんでわたしまでいっしょに移動したかって言うと、三条くんのお世話係のため。三条くん、この距離でも黒板の字を読めないときがあるみたいなんだよね。だから、読めないところはわたしが口で教えてあげることになったんだ。 「三条くんって、ほんとに目悪いんだね」  算数の時間、各自問題を解くように、って三沢先生は適当な指示を出した。一応、先生は教室を歩いてみんなの様子を見てるけど、あくびしてるし。相変わらず、先生はめーっちゃだるそう。  わたしは机に頬杖をついて、三条くんを見る。  わからないところは近くのひとと教え合って、とも言われたから、みんな教え合うふりして、おしゃべりしてる。わたしも面倒だしいいや~、とえんぴつを置いて、すっかり諦めモードです。 「三条くんさ、やっぱ、コンタクトにしたほうがいいんじゃない?」 「だから、痛いのはいやだと言っているだろう」 「痛くないって~」  ふふっと笑うと、三条くんはむっとする。  メガネがない三条くんは、表情のひとつひとつが、よく見える。ロボットみたいに淡々としているように見えるけど、けっこう感情が出てるんだよね。  と、うしろから視線を感じた。振り向くと、女の子たちが三条くんを見てひそひそ話をしている。 (……なんか、やっぱ、面白くないなあ) 「エナさん? どうかしたか?」  ぬ、っと三条くんの顔が目の前に現れた。 「うわっ、近い、三条くん!」 「む。すまない。近づかないと見えないんだ」 「それはわかるけど……」  あ、ダメだ。かあっと顔に熱が集まっている。もう! かっこいいな、くやしい! モデル仲間でも、ここまで顔が整った子って、なかなかいない。 「それはそうと、エナさん。問題は解けたか?」 「まだだけど……」 「教える。おしゃべりする前に手を動かせ」 「……もう。真面目だなあ」  三条くんはさくさく切り替えて、えんぴつを持ってわたしのノートをのぞきこむ。  わたしはなんだかムカムカしてきた。  だってさ、なんで、わたしばっかりドキドキしてんの? 三条くん、このキュートな顔が至近距離にあって、なんでふつうにしていられるのよ。 「エナさん、ほら、はやくしないと授業が終わってしまうぞ」  やっぱり三条くんは平気な顔して、急かしてくる。わたしは、むうっと口をとがらせた。  三条くんを照れさせたい。かわいいって言わせたい。わたしばっかり赤くなってるのは、やだ! 「エナさん、はやく」 「……あー、はいはい、やります! やればいいんでしょ!」  でもとりあえず、この問題を片づけます……。うう、覚えとけよ、三条ソウマ! 「あ、エナさん、そこの回答ちがうぞ」 「え。まじ?」
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