第六章 下校・パニック!

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「好きだ」 「……へっ?」  わたしはぽかんとする。 「世界で一番、きみが好き」  ルイルイは手の力を強めて、繰り返す。その瞳が、ぎらっと光るのが見えた。その瞬間、わかった。  これ、マジモノの力だ……!  でもなんで? わたしいま、サングラスしてるのに。 「ルイルイ、ちょっと落ち着いて! 三条くん、たすけ――ってまだ落ち込んでる⁉」  三条くんはちーん、と口から魂が飛び出していた。こんなときに! 「三条くん! 三条くんってば!」 「エナちゃん、ぼく以外のこと見ないで? ぼく、さびしいよ」 「ルイルイは落ち着こう⁉ ね?」 「落ち着いてるよ。ああ、でも、きみのことが好きすぎて、気が狂っちゃいそうだな」  さすが人気俳優! ドラマチックな言葉がぽんぽん飛び出すよ!  ま、まずい。このままだと、まずい! 三条くん……!  と、そのとき、背後ではっと息をのむ音がした。振り向くと、真っ青になったはなのんが立っていた。  ――あ。これ、本当にダメなやつだ。  はなのんの大きな瞳に、じわっと涙が浮かぶ。好きな男の子が、ほかの女の子に告白していたら、もちろんショックに決まってる。でも、ちがうの。ルイルイは、本当はわたしのこと、好きじゃないんだから。 「はなのん、ちがうの……」  わたしが言い切る前に、はなのんはくるりと背を向けた。 「はなのん、待って!」  どうしよう。どうしよう――……! 「悪しき者との縁を断ち切れ」  ふいに、ぼそっと聞こえた声に、わたしははっとする。 「解……っ!」  三条くんのひそめた声とともに、ぽわっとルイルイの額に星の光が浮かぶ。はなのんはそれを見ていなかったけど、なにか感じたのか、振り向いた。  とたんに、わたしは肩をぐっとつかまれて、ルイルイから離される。一瞬、なにが起きたかわからなかった。 (あ、わたし、三条くんに抱き寄せられてる……?)  見上げれば、すぐ近くに三条くんの顔がある。  三条くんはメガネをすっとはずした。きれいな切れ長の瞳が現れる。真剣な顔。  どきっと。  さっきルイルイに感じたものとは違う、胸の高鳴りがした。  三条くんは、ルイルイに言う。 「オレノホウガ、ズット、カノジョヲスキダッタ!」 「……うん?」  あまりにも棒読みなセリフに、わたしは目を白黒させる。え、いまのなに? 「あっ、それ、『ピュア恋』のセリフ!」  なにかに気づいたのは、はなのんだ。 「主人公をとりあって、ナツくんとフユくんが喧嘩するシーン! フユくん、メガネ男子なんだ。それで、メガネを取って、さっきのセリフを言うんだよ!」  なぜかとても興奮した様子で、はなのんはぐっと拳を握り、瞳をキラキラさせた。 「すごい三条くん! 漫画のシーン、完全再現だった!」  え。棒読みだったけど、あれで再現できてたの?  だけどはなのんは、そっかあと納得したみたい。 「みんなで、お芝居の練習してたんだね! よ、よかったぁ」 「練習……? ぼく、そんなのしてたかな」  正気に戻ったルイルイは首をかしげたけど、まあいっかと、こっちも納得したらしい。  ど、どうにか、ごまかせたっぽい……?
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