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「エナさん」
「んー?」
横を見ると、なぜだか三条くんは困った顔をしていた。
「土曜日の件、その……、本当に大丈夫だっただろうか?」
土曜日って、お家デートのこと?
わたしの頭の上にはクエスチョンマーク。
「なになに? いまさら、どうしたの?」
「昨日は勢いで言ってしまったが、あらためて考えると、女性の部屋に男ひとりで押しかけるのは、どうなのだろう……と思って」
んん?
わたしは首をかしげて、それから耐えきれずに、ぷっと噴き出した。
「あはは! 女性って、はじめて言われたよ。紳士か、三条くん!」
「わ、笑いごとではないだろう!」
「笑いごとだよ~。べつに気にしなくていいって!」
わたしが笑い続けていると、三条くんはむっと眉をひそめる。
でもさ、でもさ。三条くんも、お家デートって思って、照れちゃったってことだよね?
な~んだ。意識してるの、わたしばっかりだと思ってたけど、三条くんも気にしてるんじゃん! ふふん、ちょっと気分がよくなったぞ、三条ソウマ!
「お。メガネコンビだ。はよーっす」
「おはよー、吉田くん!」
「なんか楽しそうだな、九重さん」
「うん。ちょっとね~!」
るんるん、軽い足どりで机に向かう。
あ、でもその前に。
「三条くん、三条くん」
「なんだ?」
わたしは背伸びして、三条くんの耳もとで、ささやいた。
「お家デート、みんなにはないしょね。変なウワサになっちゃうからさ」
ぽかんとする三条くんから、一歩離れる。ちょっとだけメガネをずらして、三条くんにウインクひとつ。
「……わかった」
あ、照れてるかも、三条くん。ついつい、んふふって笑っちゃう。今日なら算数の授業もがんばれそうだよ!
「エナちゃん、おはよー。めずらしいね、こんな日に元気いいとか」
「おはよ! って、今日なんかあったっけ?」
話しかけてきた女の子に、わたしは首をひねった。雨なのに、とか? たしかに、雨はげんなりするけどさ。
「なにって、今日、算数の小テストあるよ? 忘れてた?」
……わお。そうだった。小テスト、それは、地獄の響き。
わたしは一瞬、考える。すぐさま、やるべきことを察した。
「三条くんーっ!」
びくっと三条くんがわたしを見る。
「こ、今度はなんだ?」
「テストに出そうなとこ、教えてーっ!」
泣きつくと、三条くんはめちゃくちゃ呆れた顔をした。でもちゃ~んと教えてくれるのが、三条くんのいいところだ。
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