第八章 おまじないはいつから?

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「エナさん」 「んー?」  横を見ると、なぜだか三条くんは困った顔をしていた。 「土曜日の件、その……、本当に大丈夫だっただろうか?」  土曜日って、お家デートのこと?  わたしの頭の上にはクエスチョンマーク。 「なになに? いまさら、どうしたの?」 「昨日は勢いで言ってしまったが、あらためて考えると、女性の部屋に男ひとりで押しかけるのは、どうなのだろう……と思って」  んん?  わたしは首をかしげて、それから耐えきれずに、ぷっと噴き出した。 「あはは! 女性って、はじめて言われたよ。紳士か、三条くん!」 「わ、笑いごとではないだろう!」 「笑いごとだよ~。べつに気にしなくていいって!」  わたしが笑い続けていると、三条くんはむっと眉をひそめる。  でもさ、でもさ。三条くんも、お家デートって思って、照れちゃったってことだよね?  な~んだ。意識してるの、わたしばっかりだと思ってたけど、三条くんも気にしてるんじゃん! ふふん、ちょっと気分がよくなったぞ、三条ソウマ! 「お。メガネコンビだ。はよーっす」 「おはよー、吉田くん!」 「なんか楽しそうだな、九重(ここのえ)さん」 「うん。ちょっとね~!」  るんるん、軽い足どりで机に向かう。  あ、でもその前に。 「三条くん、三条くん」 「なんだ?」  わたしは背伸びして、三条くんの耳もとで、ささやいた。 「お家デート、みんなにはないしょね。変なウワサになっちゃうからさ」  ぽかんとする三条くんから、一歩離れる。ちょっとだけメガネをずらして、三条くんにウインクひとつ。 「……わかった」  あ、照れてるかも、三条くん。ついつい、んふふって笑っちゃう。今日なら算数の授業もがんばれそうだよ! 「エナちゃん、おはよー。めずらしいね、こんな日に元気いいとか」 「おはよ! って、今日なんかあったっけ?」  話しかけてきた女の子に、わたしは首をひねった。雨なのに、とか? たしかに、雨はげんなりするけどさ。 「なにって、今日、算数の小テストあるよ? 忘れてた?」  ……わお。そうだった。小テスト、それは、地獄の響き。  わたしは一瞬、考える。すぐさま、やるべきことを察した。 「三条くんーっ!」  びくっと三条くんがわたしを見る。 「こ、今度はなんだ?」 「テストに出そうなとこ、教えてーっ!」  泣きつくと、三条くんはめちゃくちゃ呆れた顔をした。でもちゃ~んと教えてくれるのが、三条くんのいいところだ。
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