第九章 おまじないの正体

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 わたしはサイダーをごくごく飲みながら、お父さんに貸してもらったノートパソコンを立ち上げる。 「サイダー最高。やっぱ夏は炭酸だよね~。えーっと、写真はこの前見せたものがほとんどだけど、動画はパソコンにしか入ってないみたいだよ」 「なるほど。では、動画を確認していこう」  わたわたしていた三条くんも、きりっと表情を引き締めた。 「二年生の夏、だよね」  わたしも、ちょっと緊張しながら、そのころにとられたデータを開いていく。最初に開いたのは、庭で遊んでいる動画だ。白いワンピースを着たわたしが、きゃっきゃと走り回っている。 「やば。わたし、かわいい~」  ついつい自分の姿にデレデレしてしまうわたし。でも、三条くんは真顔で画面を見ていた。 「このときじゃないな。つぎの動画を頼む」 「……はいはい」  もー、ひと言くらい、かわいいって言ってくれてもいいじゃんか。頬をふくらませながら、次の動画を開く。  あ。 「……お母さんだ」  わたしのこぼした声をかき消すように、画面の向こうで、小さなわたしが笑い声を上げた。そんなわたしを抱き上げる、お母さん。 「やっぱり、きれいだなあ、お母さん」  笑ったわたしの声は、だけどちょっとだけ、しんみりしていた。 「どうかしたか?」  三条くんが画面から目をそらして、わたしを見る。わたしは膝をぎゅっと抱えて座り直した。 「お母さん、この年の冬に死んじゃったの」  病気だった。夏にはもう、病気のことがわかっていたみたい。でもお母さんは、ずっとわたしにそのことを隠してた。わたしに心配をかけないように、いつもみたいに、きれいに笑って……。 「いまも生きてたら、きっと世界のトップモデルになってたと思う。わたしね、お母さんみたいなモデルになりたいの」  三条くんがなにも言わないから、わたしは次の動画を再生する。 「まだまだ、わたしはお母さんに並べてないんだけどね」  お母さんは、もっともっと、きらきらしてた。ひとの視線を集めるオーラがあった。わたしも、そんな女の子になりたい。だからもっと、かわいくならないと。 「大丈夫だ」  三条くんが、ふいにつぶやいた。わたしは三条くんを見る。 「大丈夫……?」 「ああ。エナさんなら、不安になる必要なんてないだろう」  そう言って、三条くんは微笑んだ。 (ああ、なんだろう、これ)  ふわっと心が軽くなる。 「……ありがとう」  わたしはつぶやいて、ぐいっとサイダーを飲む。しゅわしゅわとさわやかなサイダーが、のどを通り抜けていく。熱くなった身体には、ちょうどいい冷たさだった。 「うん、がんばる!」  相変わらず「かわいい」とは言ってくれない三条くん。だけど、「大丈夫」って言ってくれるってことは、わたしのこと認めてくれてるんだよね。  それは、けっこう、うれしいかもしれない。
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