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わたしはサイダーをごくごく飲みながら、お父さんに貸してもらったノートパソコンを立ち上げる。
「サイダー最高。やっぱ夏は炭酸だよね~。えーっと、写真はこの前見せたものがほとんどだけど、動画はパソコンにしか入ってないみたいだよ」
「なるほど。では、動画を確認していこう」
わたわたしていた三条くんも、きりっと表情を引き締めた。
「二年生の夏、だよね」
わたしも、ちょっと緊張しながら、そのころにとられたデータを開いていく。最初に開いたのは、庭で遊んでいる動画だ。白いワンピースを着たわたしが、きゃっきゃと走り回っている。
「やば。わたし、かわいい~」
ついつい自分の姿にデレデレしてしまうわたし。でも、三条くんは真顔で画面を見ていた。
「このときじゃないな。つぎの動画を頼む」
「……はいはい」
もー、ひと言くらい、かわいいって言ってくれてもいいじゃんか。頬をふくらませながら、次の動画を開く。
あ。
「……お母さんだ」
わたしのこぼした声をかき消すように、画面の向こうで、小さなわたしが笑い声を上げた。そんなわたしを抱き上げる、お母さん。
「やっぱり、きれいだなあ、お母さん」
笑ったわたしの声は、だけどちょっとだけ、しんみりしていた。
「どうかしたか?」
三条くんが画面から目をそらして、わたしを見る。わたしは膝をぎゅっと抱えて座り直した。
「お母さん、この年の冬に死んじゃったの」
病気だった。夏にはもう、病気のことがわかっていたみたい。でもお母さんは、ずっとわたしにそのことを隠してた。わたしに心配をかけないように、いつもみたいに、きれいに笑って……。
「いまも生きてたら、きっと世界のトップモデルになってたと思う。わたしね、お母さんみたいなモデルになりたいの」
三条くんがなにも言わないから、わたしは次の動画を再生する。
「まだまだ、わたしはお母さんに並べてないんだけどね」
お母さんは、もっともっと、きらきらしてた。ひとの視線を集めるオーラがあった。わたしも、そんな女の子になりたい。だからもっと、かわいくならないと。
「大丈夫だ」
三条くんが、ふいにつぶやいた。わたしは三条くんを見る。
「大丈夫……?」
「ああ。エナさんなら、不安になる必要なんてないだろう」
そう言って、三条くんは微笑んだ。
(ああ、なんだろう、これ)
ふわっと心が軽くなる。
「……ありがとう」
わたしはつぶやいて、ぐいっとサイダーを飲む。しゅわしゅわとさわやかなサイダーが、のどを通り抜けていく。熱くなった身体には、ちょうどいい冷たさだった。
「うん、がんばる!」
相変わらず「かわいい」とは言ってくれない三条くん。だけど、「大丈夫」って言ってくれるってことは、わたしのこと認めてくれてるんだよね。
それは、けっこう、うれしいかもしれない。
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