第九章 おまじないの正体

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「赤い糸はいいとして、この小瓶はなんだろうな」  三条くんとふたり、パソコンの画面を見ながら首をかしげる。  おまじないがどんなものかは、なんとなくわかった。でも三条くんが言うには、細かいところまで、おまじないのやり方をわかっていないと、マジモノを祓うことはできないらしい。  赤い糸は、ひととひとを結ぶものだ。ほら、運命の赤い糸って言うでしょ? 将来つき合う運命のひと同士、赤い糸で結ばれてるってやつ。おまじないで、ひととひとの縁を結びたいときには、よく使われるものなんだって。  あとは小瓶がなにかって、話なんだけど……。 「これ、たぶん、アロマオイルだと思うよ」 「アロマ?」 「うん。お母さんの部屋に、こういう小瓶があったはず」  わたしは一度お母さんの部屋に行って、メイクポーチを持ってきた。中には、同じ大きさの小瓶がいくつか入っている。 「ほら、この小瓶じゃない?」  ひとつを取り出して、画面の横に並べた。 「たしかに、色も大きさも、これだな」 「ね。だけど、どのアロマオイルなのかはわからないなあ」  小瓶にはラベルが貼ってあって、なんの香りなのかが書いてある。でも動画では、そのラベルまで確認ができなかった。 「匂いもわかってないとダメ?」 「ああ」 「そっか。難しいなあ。ここにあるのは、ラベンダー、ローズ、バニラ、レモン……」  ひとつひとつポーチから出してみる。だけど、どれがおまじないに使われていたのかは、わからない。  困ったな。お父さんに聞けばわかるかな? でもお父さん、けっこう忘れっぽいし……。  迷っていると、三条くんは、ふたつの小瓶を抜き取った。 「おそらく、このふたつの、どちらかだろう」 「え?」  それは、ローズと、バニラの香り。 「なんでそう思うの?」 「ひとに好かれるおまじないに、よく使われる香りなんだ」 「へー。詳しいね」 「マジモノを祓うためには、おまじないの知識が必要だからな」  メガネをちゃきっとさせて、三条くんが誇らしげに言う。 「この香りをハンカチにしみこませて持ち歩くだけでも、おまじないの効果はあるぞ」 「へー、お手軽!」 「まあ、おまじないにばかり頼って、マジモノを生んでもらっては困るがな」  三条くんはふたつの小瓶をわたしに手渡した。 「どちらの香りだと思う?」 「うーん、そうだなあ」  わたしは小瓶のふたを開けて、鼻を近づける。二年生のころだし、おまじないはわたしがお昼寝しているときにかけられたわけだから、かいだってわからない気もするけど……。でも、鼻を近づけてみると、ぴんときた。  ローズは、華やかな香り。  バニラは、甘い香り。 「バニラ」  わたしはバニラの小瓶を三条くんに見せる。 「バニラだと思う。これ、お母さんの匂いだ」  いつも抱きしめられたときに感じた、お母さんの香り。これだった気がする。 「ふむ。エナさんがそう感じたのなら、きっと間違いないな」  言いながら、三条くんは裁縫道具から、赤い色を取り出す。家庭科で使っている裁縫道具だ。こんなところで役に立つなんてね。 「エナさん。マジモノの祓いかたは覚えているか?」 「えええ、急にテスト……?」  テスト嫌いなのにぃ。  たしか三条くんから聞いた気はするけどさ。  えっとね……。 ① マジモノを生んだおまじないについて知る。 ② 三条くんがマジモノを引きはがす。 ③ わたしがマジモノを断ち切る。 「そうだ。よく覚えていたな」  お、当たってたみたい! 「えへへ~、でしょでしょ! わたしもやればできるのよ」 「そうだな」  三条くんはちょっとだけ、おかしそうに笑ってから(なんだよもう、かわいい顔じゃん)、ぱちん、とハサミで赤い糸を適当な長さに切った。 「エナさんが、おまじないなんていらないと思わなければ、マジモノを祓えない」 「うん」 「きみのお母さんがかけたおまじないだが、断ち切れるか?」  そう言われて、わたしは一瞬口をつぐんだ。  でも、うなずく。 「これ以上、みんなを巻きこみたくない。大丈夫、できるよ」 「わかった」  三条くんも、しっかりとうなずく。 「では、はじめよう」
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