第十章 マジモノ祓い

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『イイノ? ワタシガ、イナクテ、イイノ?』  甲高い声で、人形が言う。カタカタと音を鳴らしながら、首をかしげる。 『モデルトシテ、ニンキ、ナクナッチャウヨ?』  カタカタ、カタ。  人形の小さな指が、壁をさす。そこに貼られた、わたしのポスターに。 『コトシ、イチイ、トレナイヨ……?』 「え?」 「聞くな、エナさん。惑わされてはいけない」 「う、うん」  うなずきながらも、わたしはどうしてか、人形から目をそらせなかった。 「わ、わたしは、かわいいから。一位だって、自分の実力で取れるもん。おまじないなんて、いらない!」 『ホント、ホント?』  ぐっと、人形がわたしの目の前に現れた。 『……ホント?』  真っ黒の瞳が見開かれて、わたしを見ている。それは、こそっと、わたしにだけ聞こえるように、耳もとでささやいた。 『ソノオトコノコ、カワイイ、ッテ、イッテクレナイノニ?』 「エナさんから離れろ!」  人形は笑う。クスクス。 『アナタ、ジャマ』  瞬間、人形がぱかっと口を開けた。そこから、金属をすり合わせたような、甲高い音が鳴る。なにこれ。頭が、痛い……!  扉がばん、と開いた。 「お、お父さん……⁉」  買い物から帰って来たらしい、お父さんが立っていた。でも、いつもの優しいお父さんじゃない。ぎらぎらと目が輝いている。これは、吉田くんやルイルイと同じ目だ。  お父さんはすばやく駆け寄ってきて、三条くんを羽交い締めにした。 「うっ……」 「三条くん!」  お父さんにつかまった三条くんが手足をばたつかせても、お父さんは離れない。 「エナさん、おれのことはいい! マジモノを切り離すことだけ考えろ!」 「で、でも!」 「はやく!」  どうしよう。  ていうか、切り離すって、どうやれば……? 『カガミ、ミテ』  人形が言う。聞いちゃダメだってわかっているのに、わたしは鏡を見てしまう。 「――あ、れ……?」  鏡に映った、わたしの姿。  いつもと同じ髪型。いつもと同じ顔。  だけど、なんだろう。 (わたし、もっと、きらきらしてなかった……?) 『イイノ? カワイク、ナクナッチャウヨ?』  人形がささやく。  もしかして、マジモノを祓おうとしたから、かわいくなくなったってこと? マジモノのいないわたしって、こんなに地味なの……? 「わ、わたし」 『ハナノン、ニ、マケチャウネ』  びくっ。  はなのんに、わたしが、負ける……?  いやだ……、それは、いや! 『ネ? イッショニ、イヨウ?』  そう言ったとたん、人形は黒い煙になる。すごい勢いで、わたしの小指の、赤い糸に吸い込まれていった。……わたしの身体に、戻ってしまった。 「悪しき者との縁を断ち切れ。解!」  三条くんの必死の声がする。  お父さんは、ぱたん、と気を失った。  解放された三条くんは、わたしを見る。 「エナさん」 「……ごめん、三条くん」  どうしよう。  わたし、マジモノのお祓い、失敗しちゃったんだ。
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