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『イイノ? ワタシガ、イナクテ、イイノ?』
甲高い声で、人形が言う。カタカタと音を鳴らしながら、首をかしげる。
『モデルトシテ、ニンキ、ナクナッチャウヨ?』
カタカタ、カタ。
人形の小さな指が、壁をさす。そこに貼られた、わたしのポスターに。
『コトシ、イチイ、トレナイヨ……?』
「え?」
「聞くな、エナさん。惑わされてはいけない」
「う、うん」
うなずきながらも、わたしはどうしてか、人形から目をそらせなかった。
「わ、わたしは、かわいいから。一位だって、自分の実力で取れるもん。おまじないなんて、いらない!」
『ホント、ホント?』
ぐっと、人形がわたしの目の前に現れた。
『……ホント?』
真っ黒の瞳が見開かれて、わたしを見ている。それは、こそっと、わたしにだけ聞こえるように、耳もとでささやいた。
『ソノオトコノコ、カワイイ、ッテ、イッテクレナイノニ?』
「エナさんから離れろ!」
人形は笑う。クスクス。
『アナタ、ジャマ』
瞬間、人形がぱかっと口を開けた。そこから、金属をすり合わせたような、甲高い音が鳴る。なにこれ。頭が、痛い……!
扉がばん、と開いた。
「お、お父さん……⁉」
買い物から帰って来たらしい、お父さんが立っていた。でも、いつもの優しいお父さんじゃない。ぎらぎらと目が輝いている。これは、吉田くんやルイルイと同じ目だ。
お父さんはすばやく駆け寄ってきて、三条くんを羽交い締めにした。
「うっ……」
「三条くん!」
お父さんにつかまった三条くんが手足をばたつかせても、お父さんは離れない。
「エナさん、おれのことはいい! マジモノを切り離すことだけ考えろ!」
「で、でも!」
「はやく!」
どうしよう。
ていうか、切り離すって、どうやれば……?
『カガミ、ミテ』
人形が言う。聞いちゃダメだってわかっているのに、わたしは鏡を見てしまう。
「――あ、れ……?」
鏡に映った、わたしの姿。
いつもと同じ髪型。いつもと同じ顔。
だけど、なんだろう。
(わたし、もっと、きらきらしてなかった……?)
『イイノ? カワイク、ナクナッチャウヨ?』
人形がささやく。
もしかして、マジモノを祓おうとしたから、かわいくなくなったってこと? マジモノのいないわたしって、こんなに地味なの……?
「わ、わたし」
『ハナノン、ニ、マケチャウネ』
びくっ。
はなのんに、わたしが、負ける……?
いやだ……、それは、いや!
『ネ? イッショニ、イヨウ?』
そう言ったとたん、人形は黒い煙になる。すごい勢いで、わたしの小指の、赤い糸に吸い込まれていった。……わたしの身体に、戻ってしまった。
「悪しき者との縁を断ち切れ。解!」
三条くんの必死の声がする。
お父さんは、ぱたん、と気を失った。
解放された三条くんは、わたしを見る。
「エナさん」
「……ごめん、三条くん」
どうしよう。
わたし、マジモノのお祓い、失敗しちゃったんだ。
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