第十一章 不安

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第十一章 不安

 月曜日。わたしは、うつむきながら教室に入った。 「あ、エナちゃん、はよー」 「おはよ……」 「あれれ。どうしたの? なんか元気ないっぽい?」 「え、ううん! なんでもないよ~?」  クラスの子たちに笑って、そそくさと自分の机に向かう。  土曜日、マジモノを祓おうとして、わたしは失敗した。どうしても怖くなって、マジモノを断ち切ることができなかったんだ。三条くんには「平気」って言ったのに、結局ダメだった。その日は会話もすくなく、三条くんが帰っていって、それで今日。 (どんな顔して、三条くんに会えばいいのかわからない)  三条くんのほうでも、同じなのかもしれない。それか、失敗したわたしに怒っているのかも。三条くんから、わたしに話しかけてくることはなかった。 「ハナノちゃん、人気投票見たよ。がんばってるじゃん!」 「ありがとう。でもやっぱり、一位はエナちゃんになりそう。ね、エナちゃん」  女の子たちと話していたはなのんが、わたしに視線を向ける。  雑誌で毎年行う、モデルの人気投票。わたしも昨日、順位を確認した。相変わらず、一位はわたしで、二位ははなのん。でもはなのんの票が、どんどん増えていた。 「エナちゃん? どうかしたの?」 「う、ううん。一位取れるように、がんばっちゃうからね~!」  あわてて、にっこり笑顔をつくる。  わたしは、今年も一位になりたい。トップモデルを目指すんだから。こんなところで、負けてられないんだ。そのためには、やっぱり……。 「……三条くん」  放課後になって、わたしは三条くんに声をかけた。 「その……、いっしょに帰ろ」 「ああ」  三条くんは立ち上がって歩き出す。ふたりで道を歩いているのに、しばらく会話はなかった。夏のうるさいセミの声だけが、わたしたちの間に流れていた。 「マジモノは、あれから大丈夫だったか」  三条くんが口を開いた。 「う、うん。いまのところは」 「そうか。それならよかった」  怒ってない、のかな……?  わたしは、おそるおそる三条くんを見上げる。  三条くん、優しいもんね。でも、わたし、きっとこれから三条くんを本気で怒らせてしまう。ぎゅっと、手のひらを握った。 「――あのさ、三条くん」 「なんだ」 「雑誌でね、モデルの人気投票してるんだけど。最近、はなのんの人気がすごくてね」  ふるえる声で、なんとか話す。 「はなのん、すごいんだよ。今年の春からモデルはじめて、もうこんなに人気なの。努力だって、たくさんしてるし」  小さいころからモデルをしているわたしに、もう追いつこうとしてる。おまじないの力もないのに、みんなに好かれて。 「わたし、はなのんには負けたくない。だれよりも、かわいいモデルになりたいの」  だから。  きゅっと苦しい喉から、どうにか声を出す。 「……マジモノを、そのままにしてほしい」 「なに?」  三条くんが、眉をひそめる。わたしはびくっと肩をふるわせながら、それでも必死に言った。 「マジモノがいなくなったら、わたし、人気なくなっちゃう。そんなの、やだ」  ぎゅっとこぶしを握る。 「だれとも目を合わせないようにするし、気をつけるから、だから、ごめん……!」 「エナさん!」  三条くんをおいて、走り出す。  ごめん。ごめんね、三条くん。大丈夫だって言ったのに、全然大丈夫じゃなかった。すごく怖いんだ。  わたし、自分の魅力だけで、みんなに好きでいてもらえるのかな。
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