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それからも、頭痛がぜんぜん治らなかった。それで何日も休むことになっちゃって、なさけない。
三条くんは、ずっとプリントを届けにきてくれていた。はなのんや、ほかのクラスメイトたちも、メッセージをくれたり、三条くんといっしょに来てくれたりした。それなのに、わたしは無視ばっかりしてる。
最低だよ、わたし。
「エナ、本当に撮影に行くのかい?」
「……うん。お仕事だもん」
(まあ、学校も休むなって、話なんだけどさ)
自分で自分をバカにして笑う。
心配そうなお父さんが運転する車に乗って、スタジオに向かった。その車の中でも、わたしは、じっとうつむいていた。道を歩いているひとたち、すれちがう車に乗ったひとたち……、みんなと目が合わないように。
「エナ。本当に大丈夫かい? 体調悪ければ、撮影はお休みにしてもらっても……」
「ううん。大丈夫、いけるよ。いってきまーす」
お父さんに無理やりつくった笑顔を浮かべて、駐車場で別れる。
大丈夫。いつもみたいに、さくっと撮影して、帰ればいいだけなんだから――。そう思った。でも。
「うわっ……!」
急に、後ろから腕を引かれた。わたしは叫んで、とっさに振り返る。
知らない男の子が、ふたり、いた。
その目には、見覚えがある。
ぎらりと光る、そのあやしい目。
「九重エナちゃんだよね。おれ、ずっときみのこと好きだったんだ!」
「おれも!」
一歩、わたしに近づいてくる。
(なんで? 目は合っていないはず。もしかして、マジモノの力が強くなってる……?)
近くにいるだけで、好かれるようになってしまったってこと?
わたしは一歩後ずさる。
「あの、離して……」
「どうして? こんなに好きなんだから、いいだろ?」
「……あなたたちの『好き』は、ほんとの気持ちじゃないんだよ」
「あはは。変なこと言うんだね、エナちゃん」
ぐいっと腕を強く引かれて、男の子の顔が近づく。
いやだ、怖い。
だけど、マジモノを祓わないって決めたのは、わたしだ。
三条くんは頼れない。自分だけで、なんとかしなきゃ……!
わたしは男の子たちの腕を振り払って、走り出した。
「あ、待ってよ、エナちゃん!」
逃げなきゃ、スタッフさんたちのいるところ……、ううん、スタッフさんたちも、操られちゃうかもしれない。じゃあ、ひとのいないところへ?
ああ、どうしよう。怖い。
頼っちゃいけないのに、三条くんの顔が頭に浮かぶ。
必死になって走って、駐車場横にある小さな物置に駆け込んだ。中には掃除道具とか、懐中電灯とかが、ごちゃごちゃと置いてある。ひとつしかない扉を勢いよく閉めて鍵をかけると、中は真っ暗になった。
「エナちゃん、エナちゃん」
「出てきてよ。話をしよう。ねえ」
外から、扉がばんばん、と叩かれる。
わたしは両手で耳をふさいで、しゃがみ込んだ。
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