第十一章 不安

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 それからも、頭痛がぜんぜん治らなかった。それで何日も休むことになっちゃって、なさけない。  三条くんは、ずっとプリントを届けにきてくれていた。はなのんや、ほかのクラスメイトたちも、メッセージをくれたり、三条くんといっしょに来てくれたりした。それなのに、わたしは無視ばっかりしてる。  最低だよ、わたし。 「エナ、本当に撮影に行くのかい?」 「……うん。お仕事だもん」 (まあ、学校も休むなって、話なんだけどさ)  自分で自分をバカにして笑う。  心配そうなお父さんが運転する車に乗って、スタジオに向かった。その車の中でも、わたしは、じっとうつむいていた。道を歩いているひとたち、すれちがう車に乗ったひとたち……、みんなと目が合わないように。 「エナ。本当に大丈夫かい? 体調悪ければ、撮影はお休みにしてもらっても……」 「ううん。大丈夫、いけるよ。いってきまーす」  お父さんに無理やりつくった笑顔を浮かべて、駐車場で別れる。  大丈夫。いつもみたいに、さくっと撮影して、帰ればいいだけなんだから――。そう思った。でも。 「うわっ……!」  急に、後ろから腕を引かれた。わたしは叫んで、とっさに振り返る。  知らない男の子が、ふたり、いた。  その目には、見覚えがある。  ぎらりと光る、そのあやしい目。 「九重エナちゃんだよね。おれ、ずっときみのこと好きだったんだ!」 「おれも!」  一歩、わたしに近づいてくる。 (なんで? 目は合っていないはず。もしかして、マジモノの力が強くなってる……?)  近くにいるだけで、好かれるようになってしまったってこと?  わたしは一歩後ずさる。 「あの、離して……」 「どうして? こんなに好きなんだから、いいだろ?」 「……あなたたちの『好き』は、ほんとの気持ちじゃないんだよ」 「あはは。変なこと言うんだね、エナちゃん」  ぐいっと腕を強く引かれて、男の子の顔が近づく。  いやだ、怖い。  だけど、マジモノを祓わないって決めたのは、わたしだ。  三条くんは頼れない。自分だけで、なんとかしなきゃ……!  わたしは男の子たちの腕を振り払って、走り出した。 「あ、待ってよ、エナちゃん!」  逃げなきゃ、スタッフさんたちのいるところ……、ううん、スタッフさんたちも、操られちゃうかもしれない。じゃあ、ひとのいないところへ?  ああ、どうしよう。怖い。  頼っちゃいけないのに、三条くんの顔が頭に浮かぶ。  必死になって走って、駐車場横にある小さな物置に駆け込んだ。中には掃除道具とか、懐中電灯とかが、ごちゃごちゃと置いてある。ひとつしかない扉を勢いよく閉めて鍵をかけると、中は真っ暗になった。 「エナちゃん、エナちゃん」 「出てきてよ。話をしよう。ねえ」  外から、扉がばんばん、と叩かれる。  わたしは両手で耳をふさいで、しゃがみ込んだ。
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