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第二章 メガネを外せば、あら不思議
つぎの日。
わたしはチャイムが鳴る数分前に、ダッシュで五年二組の教室に駆け込んだ。
「おはよー!」
「あ、エナちゃんおはよう。今日も駆け込みだね」
くすっと笑うクラスメイトたち。
むむ、バカにされている……。
「間に合ってるんだから、セーフでしょ~!」
窓際の自分の席に急いで、先生が来る前に、机に教科書をつっこむ。その間に、走ってきてバクバクしている心臓も落ち着ける。汗もダラダラだ。夏に全力ダッシュなんて、するもんじゃないね。ちょっとずれちゃったメガネも、しっかりかけ直して。
「九重さん。もうすこし余裕を持って登校したらどうだ」
「うわっ、出たな、三条ソウマ!」
現れたのは、長身でダサいメガネの三条くん。朝から、まさかのお説教⁉
「話があったのに、こんなギリギリに来られては困るぞ」
「知らないよ、そんなの。あともうちょっと、場所を考えてよね!」
ため息をつくと、三条くんは首をかしげてロボットみたいに淡々と言った。
「教室でクラスメイトに話しかけることの、どこに問題があるんだ?」
「目立つじゃん、昨日の今日だと」
「目立つ……?」
あ、これ、わかってない系だな。
わたしは無言でまわりを指さした。それから、小声で言う。
「みんな見てる。美少女エナちゃんに話があるとか、注目されるに決まってるじゃん」
「はあ、そういうものか?」
あー、ダメだな、これ。全然わかってないよ。
クラスの子たち、みんな「あの二人仲いいの?」「昨日も話してたよね!」「まさか、アレ、告白だった⁉」「ダサいメガネコンビ!」って騒いでるのに、なんで気づかないかなあ。
というか、だれ、ダサいメガネコンビとか言った子!
「九重さん。どうした」
「……三条くん、さては鈍感だな」
「む。そうか? はじめて言われた」
「えええ、うそ。超鈍感臭するけど」
「みなさん、おはようございますー。席についてー」
がらっと扉を開けて、三沢先生が入ってきた。いつもジャージ姿の、だるそうな男の先生だ。こっちだって、毎日毎日つまんない授業受けて、だるいんだけどね。
「……もう時間か。仕方ない。ではエナさん、また休み時間に話そう」
三条くんは微妙に肩を落として、自分の席に戻っていった。
(話、ねえ。なんだろ)
「えー、最近、ミサンガがはやっているようですが、みなさん、していませんねー?」
先生のそんな言葉に、わたしは前を見る。
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