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第十二章 マジモノ祓い!
わたしたちは駐車場のすみで、赤い糸と、バニラのアロマオイルを囲んだ。オイルはこの前、三条くんに渡しておいたんだ。
「ここでやるの?」
「マジモノを祓わないまま、撮影は難しいだろう」
「そうだけど……」
いざってときになって、緊張してきた。わたし、うまくできるかな。この前は失敗したのに。
赤い糸にオイルを垂らして、三条くんが顔を上げる。
「大丈夫。エナさんならできる」
あ、また。すとんと心に届く声。
「……わかった」
わたしも深呼吸して、うなずく。もう心は決めた。
赤い糸を、三条くんがわたしの小指に巻きつける。
(……大丈夫。大丈夫。わたしなら、できる)
まるでわたしの心の声を聞いているみたいに、三条くんはうなずいた。そうして。
「汝の正体、ここに見破ったり」
三条くんの、澄んだ声。
「三条ソウマが命ずる。ここに、その姿を現せ。……召喚!」
前と同じ、赤い糸から黒い煙が生まれる。真っ黒の、闇を集めたようなもや。宙に現れた、美しい西洋人形を見て、わたしはすうっと息を吸い込む。
「わたし、もう、おまじないはいらないよ」
カタカタ、カタ。
人形が首をかしげる。
『ドウシテ?』
「わたしは、わたしの魅力で、みんなに好かれたい」
九重エナは、人気モデル。そうなるために、努力してきた。
それを認めてくれるひとがいたから。
「わたしは、かわいい! おまじないなんて必要ない!」
力いっぱい叫んだ。
ぴた、と人形が動きを止める。次の瞬間だった。人形は口を大きく開けて、叫び声をあげた。
キイイイいぃぃぃぃぃぃ!
思わず両手で耳をふさぐ。金属をこすり合わせたような音。黒板を爪でひっかいたような音。とにかく不快な音。
「まずいな」
三条くんがつぶやくと、周りから、よろ、とだれかが近づいてくる気配がした。ひとりじゃない。たくさん。マジモノに操られたひとたちが、瞳をぎらつかせて、よろよろとこちらに向かってくる。
『ワタシ、ハ、ミンナニ、スカレルノ』
真っ黒い瞳をかっと開いて、マジモノが言う。
操られたひとたちが、一斉に飛びかかってきた。
「三条くん!」
三条くんは指を二本立てて、襲ってくるひとたちに向ける。
「悪しき者の動きを封じる。縛!」
彼らの足もとに輝く鎖が現れて、動きを封じる。だけど、術に捕まらなかったひとが、わたしたちに駆け寄ってくる。
三条くんは身体を低くして構え、彼らの腕をつかまえると、投げ飛ばした。
「……え、三条くん、つよっ」
目を白黒させたわたしに、ちゃきっとメガネを押し上げる三条くん。
「柔道剣道弓道その他もろもろ、日本武道は仕込まれている。神社の息子をなめるな!」
「えええ、神社の子って大変なんだね」
「……まあ、うちの親が特殊なだけなんだが。父さんが好きなんだ、日本文化」
なんか、大変そう。道理で運動得意なわけだね、三条くん。
「そんなことより、マジモノだ。はやく断ち切れ!」
「う、うん……!」
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