第十二章 マジモノ祓い!

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 あわてて、マジモノに向き直る。  マジモノは操った人間が封じられたことに、あせっているみたいだった。ギリギリと歯ぎしりしている。 「わたしは、もう、あなたの手は借りない!」 『ナンデ? ズット、タスケテアゲタノニ』 「それはありがとう! だけど、もういいの!」  必死に叫ぶ。すると、マジモノは急に黙った。しゅう、と静かになって、宙をおりてくる。わたしの目の前に。  ぐっと緊張したわたしを、闇を集めた黒い瞳が見つめる。 『ヤダ』 (――あ、れ?)  瞳を見た瞬間、身体が動かなくなる。 『ミンナ、ワタシヲ、スキニナル』  好きに……すき、に……。好きに、なる。 (そう。好きになる)  よろよろと、わたしの手が勝手に動く。その手が人形を抱きしめて、わたしは、にっこり笑った。 「かわいい子。ずっと、いっしょにいようね」  一瞬、なんで、って思った。だけどその気持ちはすぐどこかに消えた。こんなかわいい人形を、どうして手放そうとしていたんだっけ……。  かわいい子。  ずっとずっと、ずっと、ズット、イッショニ、イナキャ――……。 「エナさん! 操られるな!」  はっとした。  三条くんの声に、ぱっとマジモノを手放す。  どさ、っと地面に落ちる人形。 『……ヤダヤダヤダ! ミンナ、ワタシノコト、スキジャナキャ、ヤダ!』  ふたたび宙に浮いたマジモノは、ぽろぽろと涙を流して叫んだ。好かれたいっておまじないから生まれた、マジモノの叫びが響く。 (ああ、わかっちゃうな、その気持ち……)  わたしだって、さっきまでそう思ってたもん。 「みんなに、好きでいてほしいよね。わかるよ」  わたしは、マジモノを見上げる。 「だけど、ひとを操って、好きって言ってもらうのは、さびしくない?」  マジモノに手を伸ばすと、落ちてきた涙が、ぽとぽとと手をぬらした。 「本当の自分を見て、好きって言ってもらえたほうが、何倍もうれしいんだよ」  操っちゃえば、そりゃあ、楽なんだけどね。  努力して、認めてもらえたほうが、うれしいって知った。
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