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あわてて、マジモノに向き直る。
マジモノは操った人間が封じられたことに、あせっているみたいだった。ギリギリと歯ぎしりしている。
「わたしは、もう、あなたの手は借りない!」
『ナンデ? ズット、タスケテアゲタノニ』
「それはありがとう! だけど、もういいの!」
必死に叫ぶ。すると、マジモノは急に黙った。しゅう、と静かになって、宙をおりてくる。わたしの目の前に。
ぐっと緊張したわたしを、闇を集めた黒い瞳が見つめる。
『ヤダ』
(――あ、れ?)
瞳を見た瞬間、身体が動かなくなる。
『ミンナ、ワタシヲ、スキニナル』
好きに……すき、に……。好きに、なる。
(そう。好きになる)
よろよろと、わたしの手が勝手に動く。その手が人形を抱きしめて、わたしは、にっこり笑った。
「かわいい子。ずっと、いっしょにいようね」
一瞬、なんで、って思った。だけどその気持ちはすぐどこかに消えた。こんなかわいい人形を、どうして手放そうとしていたんだっけ……。
かわいい子。
ずっとずっと、ずっと、ズット、イッショニ、イナキャ――……。
「エナさん! 操られるな!」
はっとした。
三条くんの声に、ぱっとマジモノを手放す。
どさ、っと地面に落ちる人形。
『……ヤダヤダヤダ! ミンナ、ワタシノコト、スキジャナキャ、ヤダ!』
ふたたび宙に浮いたマジモノは、ぽろぽろと涙を流して叫んだ。好かれたいっておまじないから生まれた、マジモノの叫びが響く。
(ああ、わかっちゃうな、その気持ち……)
わたしだって、さっきまでそう思ってたもん。
「みんなに、好きでいてほしいよね。わかるよ」
わたしは、マジモノを見上げる。
「だけど、ひとを操って、好きって言ってもらうのは、さびしくない?」
マジモノに手を伸ばすと、落ちてきた涙が、ぽとぽとと手をぬらした。
「本当の自分を見て、好きって言ってもらえたほうが、何倍もうれしいんだよ」
操っちゃえば、そりゃあ、楽なんだけどね。
努力して、認めてもらえたほうが、うれしいって知った。
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