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わたしは、思いきり息を吸い込んだ。
「マジモノさんも、かわいいよ!」
『エ?』
「わたし、最初にあなたを見たとき、かわいいって、ついつい言っちゃったんだもん!」
マジモノはびっくりしたように固まった。
「おまじない任せはダメだけど、ひとから好かれたいってがんばる子は、かわいい! かわいくなりたいって、努力する子が、かわいくないわけないじゃん!」
ふわふわ浮いているマジモノを、今度は自分から、抱きしめる。
みんなみんな、かわいいし、努力すれば、いまより、もっとかわいくなれる。ズルしなくたって、いくらでも、かわいくなれるんだから。
「わたしは、わたしを信じてる。だから、もういいの」
ぎゅーっ。マジモノを抱きしめる。
「いままでありがとう。ここからは、自分で輝くよ」
マジモノを見つめて、にっこり笑顔を浮かべた。
『……ソウ』
マジモノはそれだけ言って、もう口を開かなかった。その代わり、わたしにしがみついてきた。
わたしは振り向いて、三条くんを見る。
「お願い。三条くん」
「ああ。――九重エナに憑いた、幻惑のマジモノ。ここに祓う」
そっと、三条くんがマジモノに手を伸ばす。
「封」
ふわっと、あたたかい風が吹いた。
マジモノが輝いて、だんだん、姿が薄れていく。
お母さんの優しいおまじないから生まれたマジモノ。
お別れはちょっとさびしいけど、でもわたしは、ひとりでも大丈夫。
わたしと三条くんに見守られて、マジモノは青い空に消えていった。
あとには、バニラの優しい香りが残った。
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