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第十三章 クリアな世界
「おっはよー」
「おは……え、エナちゃんが、ダサいメガネをしてない⁉」
教室に駆け込んだ瞬間、みんながざわざわして、わたしを見た。わたしはブイサインをつくって、みんなにスマイル。
「メガネやめました! 今後はこのかわいい顔が見放題だよ! うれしいだろう、みんな!」
「あはは、なにそれ~。うれしいけどさあ」
笑ってくれる女の子たちの間を通って、窓際の自分の席へ。
「エナちゃん、おはよう。メガネやめちゃったんだね。わたし、あのメガネも好きだったんだけど……」
「え。はなのん、まじ?」
駆け寄ってきたはなのんに、わたしは衝撃を受けた。あのメガネを、好きと言ってくれる子がいたのか……!
「あ、で、でもね! エナちゃんの素顔も、すっごく好きなんだよ! というか、わたし、エナちゃんのことはなんでも好き! ファンだもん!」
どーんと宣言するはなのんに、わたしはぷっと噴き出す。
「やだ、照れちゃうよ~。でも、ありがと!」
ぎゅーっと抱きつこうとして……ダメだ、さっき日課のランニングをしたばっかりだ、と思い出す。汗かいてるから、さすがに抱きつけないや。
その代わりと言ってはなんだけど、にっこり、スマイルをプレゼント。
「超絶かわいいわたしの笑顔を、はなのんにあげちゃう」
「わっ、ありがとう……!」
「相変わらずだな、エナさんは」
きゃっきゃしているところに、三条くんが呆れた顔をして歩いてきた。
「おはよ、三条くん」
「ああ、おはよう」
なーんて話していると、クラスの子たちが「あーあ」とため息をつく。
「五年二組名物、ダサいメガネコンビがなくなっちゃったかあ」
いつのまに名物になっていたんだろう。やだな、そんな名物。顔をひきつらせていると、三沢先生が入ってくる。
「おはようございますー、席についてー」
わらわらと自分の席に戻っていくクラスメイトたち。わたしは頬杖をついて、退屈そうな三沢先生の退屈なホームルームに参加する。
マジモノがいなくなって、わたしはメガネをはずすことにした。スタジオにいても、道を歩いていても、クラスの中にいても、わたしを見て「好きだ!」って叫び出すひとはいない。
でも、これでいいんだ。
……まあ、ちょっとだけ、さびしいけどね。好きになってもらえないのは。
それでも、はなのんは変わらず「好き!」って言ってくれる。三条くんだけじゃなくて、はなのんだって、わたし自身をずっと見てくれていたんだ。
それって、すっごくうれしい。
ホームルーム、一時間目、二時間目……。
何事もなく過ぎていく。
メガネをはずしたわたしの視界は、すっきりしていた。
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