第十三章 クリアな世界

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 放課後、わたしたちは約束どおりに並んで歩いた。夏の陽ざしはやっぱり暑い。きらきらまぶしい光が、三条くんの髪を輝かせた。きれいなんだよなあ、三条くん。 「マジモノのお祓いしてくれて、ありがとうね」 「いや。断ち切ったのは、エナさんのがんばりだ」 「えへへ~。それほどでも」 「マジモノを抱きしめるひとは、はじめて見た。度胸があるな」 「そんなにほめても、にっこりスマイルしかあげられないぞ~」  でも本当に、三条くんがいなかったら、ダメだった。マジモノを頼って、おびえて、部屋にとじこもっている生活が続いたと思う。 「……三条くんはさ、これからもマジモノのお祓いをするの?」 「それが仕事だからな」 「へー。大変だね」 「エナさんのモデルの仕事と同じだ。おれも、好きでやってる」  そっかあ、とわたしはランドセルの持ち手をぎゅっと握る。じゃあ、これからも三条くんは、マジモノに憑かれたひとのためにがんばるんだね。わたしにしてくれたみたいに、だれかに優しくするんだ……。 「やだなあ、それ」  つい、ぽつりと言っていた。 「なにがいやなんだ?」 「んー……、ねえ、三条くん。わたしも、手伝っていい? お祓い」 「エナさんが?」 「うん」  目を見開く三条くんに、わたしは深くうなずく。 「だって三条くんさ、ちょいちょい失礼じゃん」 「……うむ?」 「マジモノのお祓いって、憑かれちゃった本人と協力しなきゃいけないよね」  ここで復習。マジモノのお祓いには手順がある。 ① マジモノを生んだおまじないについて知る。 ② 三条くんがマジモノを引きはがす。 ③ 憑かれた本人がマジモノを断ち切る。  おまじないを知るのも、断ち切ってもらうのも、マジモノに憑かれた子に協力してもらわないといけない。でも。 「三条くん、ちょいちょい失礼じゃん」 「二度も言うな。……おれは、そんなに、失礼なことを言っただろうか」 「うん、言った言った。だって何回か、わたしとケンカしたでしょ」  うっ、と三条くんがうなる。 「その節は、すまなかった」 「あはは、いいよ。気にしてない」  ……ちょっと失礼なところもあるけど、ほんとは三条くんが優しいひとだって、わかってる。でもいまは、ごめんね、ないしょ。 「わたし、コミュ力高いよ。すぐ初対面の子と仲よくなれる。あと度胸もある」 「それはそうだろうな」 「でしょ。それから運動得意だし。かわいいし」 「かわいさはお祓いには必要ないが」 「と、に、か、く! わたし、お買い得だと思うよ?」  ね、と三条くんをのぞきこむ。 「わたしがいると、マジモノのお祓い、サクサク進むと思うなあ。ケンカも起きないと思うよ~?」  だからお願い、これからもわたしといっしょにいて。  さすがに、そんな言葉は言えないけど。  じーっと三条くんを見つめる。はなのん相手だったら、これでもう真っ赤になって、コクコクうなずいてくれると思う。でも三条くんは手ごわい。  うむ……と困ったように黙り込んでしまう。たくさん悩んで、三条くんはとうとう言った。 「マジモノは危険だから、あまり関わってほしくはないが……」  ないが? 「エナさんは体力もあるし、おれとはちがって明るいし……、手伝いを頼めるだろうか」  っしゃ、と内心でガッツポーズ! 「任せて! わたしがいれば、楽勝だよ!」 「……いつも思うが、その自信はすごいな」  呆れたような三条くん。  でもわかってる? わたしに自信をくれたのは、三条くんだよ?  いつか、そのお礼もしないとだね。  んー、とわたしは大きく伸びをする。わたし、これからも三条くんのそばにいていいんだ。それだけで、ぽわっと心があったかい。  でももう一個、やりたいことが残ってる。 「ね、三条くん。今度の土曜日、空けておいて!」 「なぜだ?」 「当日まで、ないしょ」  わたしはいたずらっぽく笑ってみせた。
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