第十四章 わたしが世界で一番かわいい!

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第十四章 わたしが世界で一番かわいい!

「九重エナ、準備できました。よろしくお願いしまーす!」  元気よくあいさつして、カメラの前に立つ。いつものスタジオ。いつものスタッフさん。だけど、スタッフさんたちは首をかしげた。 「なんかエナちゃん、変わったよね?」  困った顔でそう聞いてくる。  わかってる。マジモノがいなくなったから、わたしの魅力が減っちゃってるんだ。前みたいに、みんなの目をうばいまくるモデルじゃなくなっちゃった。  でも、わたしは、かわいい。 「今日もたくさん撮ってください。がっかりなんてさせません」  宣言すると、スタッフさんは不思議そうにしながら、うなずいた。 「じゃ、撮るね。この撮影が人気投票最後のアピールになるから、がんばって」 「はいっ」  ひきしまる空気。  わたしは、目を閉じて、すうっと深呼吸する。  大丈夫。  かわいく見える角度、ポーズ、研究してきた。  かわいくなりたい。  だれよりも、かわいくなりたい。  そう思う女の子は、強い。 「よろしくお願いします」  さあ、目を開けて。  わたしの全部、見せつけてあげよう! 「……あ」  カメラマンさんが、声をこぼす。  笑顔のわたしを、思わずって顔で、カメラにおさめる。  みんなが、わたしを前のめりになって見はじめる。  注目されてる。  次々と笑顔を披露して、わたしはわたしのステージで精いっぱい輝く。  何度も鳴るシャッター音。  わたしのかわいいが切り取られていく音。  ああ、楽しい!  もっと見てほしい。  モデル・九重エナの本気を。 「……取られちゃうな、一位」  ぼそっと、はなのんがつぶやく声が聞こえた。カメラマンさんの奥に、さっき撮影を終えたはなのんと、わたしが見学に誘った三条くんがいる。 (はなのん。わたし、負けないよ)  ぱちっ。  三条くんと視線が交差する。  わたしは、ニッと口角を上げる。  見ててよ、世界で一番かわいい女の子を!  とっておきの笑顔、あなたに見せてあげるから……っ!  今日一番の笑顔を、三条くんに。  カシャッ。  シャッター音が鳴って、場が静まり返る。 「……ありがとうございました!」  全部出しきったわたしは、胸がドキドキ鳴って、頬が熱くて。  すっごく幸せだった。 ***** 「どう? 三条くん」  わたしはぼんやりしている三条くんに、たたっと駆けよった。 「わたし、かわいかったでしょ?」  三条くんは、ちゃきっとメガネを押し上げる。  でも、見えてるよ。  頬が赤いのも、わたしから恥ずかしそうに目をそらそうとするのも。 それから、ぼそりと言った言葉も、聞き逃さなかった。 「――かわいい」  当然じゃん? だって、わたしが世界で一番かわいいんだから! (了)
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