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「ミサンガ、ダメなんだね。どうしよう」
「やっぱり、はなのんはミサンガしてたんだ」
休み時間、しょんぼりしているはなのんに、わたしはびびっと興味をひかれて小声でささやく。
「はなのん、なんのお願いをこめたの?」
「えっ⁉ えっと、その……」
はなのんは胸の前でもじもじと手をくみあわせて、わたしの耳に口を近づけた。
「恋愛成就、だよ」
え、まじ?
「はなのん好きなひといるんだ! びっくり!」
「な、内緒だよ、エナちゃん!」
「うんうん。大丈夫。わたし、口かたいよ!」
そう言いながら、ニヤニヤと笑ってしまう。恋バナはわたしも好きだもん。
「そっかそっかあ。いいねー、わたしも、ミサンガしてみようかな~」
「ダメだ。先生から注意されたばかりだろう」
「うわっ、出たっ! 三条ソウマ!」
突然、後ろから声がかかって、びくっと飛び上がった。そこにいたのは、メガネをくいっとさせた三条くんだ。
「お化けのように言うのはやめてくれ」
「仕方ないじゃん。ていうか、急に、女の子の会話に入ってこないでよね!」
「そうか。それはすまない」
おっ、意外と素直。そう言おうと思ったわたしより先に、三条くんがふたたび口を開いた。
「おまじないは、ほどほどにしたほうがいいぞ」
「え?」
わたしは、はなのんと顔を見合わせた。だって、なんか三条くんの声が、真剣だったんだもん。
「それ、どういう意味?」
「そんなことより、九重さん。話がある」
ぐいと腕を引かれる。わたしはほとんど強引に、ずるずる引きずられた。
「え、エナちゃーん⁉」
「はなのーん!」
引き裂かれる恋人みたいに叫びあってみたけど、三条くんはおかまいなし。もう、なんなのよ、三条ソウマ! と思っている間に空き教室につき、三条くんは昨日みたいに、わたしのメガネをうばった。
「な、なにすんの!」
わたしはとっさに、超絶プリティーな顔を隠す。だってだって、そうしないと三条くんが、わたしを好きになっちゃうし!
「大丈夫だ。おれは九重さんを見ても、好きになったりしない」
「……え、まじ?」
おそるおそる、顔を上げた。目が合った……んだと思う。三条くんも瞳が見えないくらいぶあついメガネをかけてるから、よくわかんないけど。
「わたしの目を見ても、なんともないの?」
「ああ。昨日言っただろう。恋愛に興味はない。それに、おれは神社の息子だから、そういうものに耐性がある」
「耐性?」
そんな話したっけ? あ、昨日、あまりにも衝撃すぎて、聞き逃してたとこかも。
それにしても、三条くん。ほんとに、わたしのこと、なんとも思っていないみたいだ。国宝級にかわいい顔を至近距離で見て、好きにならないなんて……え、おかしくない⁉
「三条くん、そのメガネ、見えてないんじゃないの⁉」
「あ、おい!」
わたしは三条くんのメガネをがしっとつかんだ。
「わたしを好きにならないとか、絶対おかしい!」
「どれだけ自信あるんだ、九重さん」
「だってモデルだよ⁉ このメガネ、度が合ってないんじゃない⁉ ……って、え」
わたしはメガネを手に、三条くんを見つめて固まった。
……うそうそ。まじ?
「九重さん。メガネがないと、なにも見えないから返してほしいんだが」
「――い」
「い?」
イケメン、だと……っ⁉
ぶあついメガネの下には、すっと切れ長の瞳があった。真っ黒で、吸い込まれそうな色。瞳がきらっと光って、思わず見とれてしまった。
ていうか、三条くん、よくよく見ると、鼻筋もすっきりしていて、くちびるも薄くて品がある。あごもしゅっと細いし……なんというか。
文句なしのイケメンじゃん……!
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