第二章 メガネを外せば、あら不思議

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「ミサンガ、ダメなんだね。どうしよう」 「やっぱり、はなのんはミサンガしてたんだ」  休み時間、しょんぼりしているはなのんに、わたしはびびっと興味をひかれて小声でささやく。 「はなのん、なんのお願いをこめたの?」 「えっ⁉ えっと、その……」  はなのんは胸の前でもじもじと手をくみあわせて、わたしの耳に口を近づけた。 「恋愛成就、だよ」  え、まじ? 「はなのん好きなひといるんだ! びっくり!」 「な、内緒だよ、エナちゃん!」 「うんうん。大丈夫。わたし、口かたいよ!」  そう言いながら、ニヤニヤと笑ってしまう。恋バナはわたしも好きだもん。 「そっかそっかあ。いいねー、わたしも、ミサンガしてみようかな~」 「ダメだ。先生から注意されたばかりだろう」 「うわっ、出たっ! 三条ソウマ!」  突然、後ろから声がかかって、びくっと飛び上がった。そこにいたのは、メガネをくいっとさせた三条くんだ。 「お化けのように言うのはやめてくれ」 「仕方ないじゃん。ていうか、急に、女の子の会話に入ってこないでよね!」 「そうか。それはすまない」  おっ、意外と素直。そう言おうと思ったわたしより先に、三条くんがふたたび口を開いた。 「おまじないは、ほどほどにしたほうがいいぞ」 「え?」  わたしは、はなのんと顔を見合わせた。だって、なんか三条くんの声が、真剣だったんだもん。 「それ、どういう意味?」 「そんなことより、九重(ここのえ)さん。話がある」  ぐいと腕を引かれる。わたしはほとんど強引に、ずるずる引きずられた。 「え、エナちゃーん⁉」 「はなのーん!」  引き裂かれる恋人みたいに叫びあってみたけど、三条くんはおかまいなし。もう、なんなのよ、三条ソウマ! と思っている間に空き教室につき、三条くんは昨日みたいに、わたしのメガネをうばった。 「な、なにすんの!」  わたしはとっさに、超絶プリティーな顔を隠す。だってだって、そうしないと三条くんが、わたしを好きになっちゃうし! 「大丈夫だ。おれは九重さんを見ても、好きになったりしない」 「……え、まじ?」  おそるおそる、顔を上げた。目が合った……んだと思う。三条くんも瞳が見えないくらいぶあついメガネをかけてるから、よくわかんないけど。 「わたしの目を見ても、なんともないの?」 「ああ。昨日言っただろう。恋愛に興味はない。それに、おれは神社の息子だから、そういうものに耐性がある」 「耐性?」  そんな話したっけ? あ、昨日、あまりにも衝撃すぎて、聞き逃してたとこかも。  それにしても、三条くん。ほんとに、わたしのこと、なんとも思っていないみたいだ。国宝級にかわいい顔を至近距離で見て、好きにならないなんて……え、おかしくない⁉ 「三条くん、そのメガネ、見えてないんじゃないの⁉」 「あ、おい!」  わたしは三条くんのメガネをがしっとつかんだ。 「わたしを好きにならないとか、絶対おかしい!」 「どれだけ自信あるんだ、九重さん」 「だってモデルだよ⁉ このメガネ、度が合ってないんじゃない⁉ ……って、え」  わたしはメガネを手に、三条くんを見つめて固まった。  ……うそうそ。まじ? 「九重さん。メガネがないと、なにも見えないから返してほしいんだが」 「――い」 「い?」  イケメン、だと……っ⁉  ぶあついメガネの下には、すっと切れ長の瞳があった。真っ黒で、吸い込まれそうな色。瞳がきらっと光って、思わず見とれてしまった。  ていうか、三条くん、よくよく見ると、鼻筋もすっきりしていて、くちびるも薄くて品がある。あごもしゅっと細いし……なんというか。  文句なしのイケメンじゃん……!
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