第二章 メガネを外せば、あら不思議

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「九重さん? メガネを返してくれ」 「うわあっ!」  本当になにも見えないのか、三条くんがぐいっと顔を寄せてくる。わたしはかっと赤くなって、三条くんから逃げた。  お、落ち着け、九重エナ! これくらいのイケメン、モデルやってれば出会うことは多いでしょ!  でも、メガネはずしたら、ほんとにイケメンなんて、そんな、そんなの……! 「そのネタは、わたしのものなのに~っ!」  わたしは床に崩れ落ち、どんどんっと拳で叩いた。 「メガネはずしたら、あら美少女、はわたしがすでにやってるのよ、三条ソウマ! キャラ被りだ! ひどい!」 「なんの話だ。あとメガネを返せ」  と、そのとき。  扉ががらっと開いた。 「おーいふたりとも、次、理科室に移動だぞ」  クラスメイトの吉田くんだ。わざわざ呼びに来てくれたらしい。そんな彼と、ぱちっと目が合った。 (あ、まずい。わたし、メガネしてない)  瞬間、吉田くんの瞳に、ぎらぎらした熱が生まれたのが見えた。ずんずんと大またでわたしに近づいてきて、腕をつかまれる。 「九重、おれとつきあってくれ!」  唐突な、愛の告白。それはあまりにも、突然だった。だけど、わたしは予想できてた。やっぱり、こうなるじゃんか! 「ちょっと、離して、吉田くん」 「いいだろ。つきあってくれよ」 「むり! わたし、恋愛とか興味ないし!」  必死に腕から逃げようとするけど、力が強くてぜんぜん離れてくれない。ど、どうしよう。 「つきあうって言うまで、離さないからな!」 「い、痛いってば、ねえ!」 「頼むよ、九重! つきあってくれないなら、おれ、死ぬからな!」 「えええっ、まてまてまて! 落ち着いて、吉田くん!」  腕をつかむ力がだんだん強くなる。こっちの話、ぜんぜん聞いてくれない。だからメガネはずしたくなかったのに……! 「九重さん、おれのメガネを返せ」 「え?」  突然の声に顔をあげると、三条くんが手を伸ばしていた。 「いいから、はやく!」 「う、うん!」  わたしはとっさに、三条くんの手にメガネを乗せた。三条くんはすぐさまメガネをつけ、吉田くんを見つめると、人差し指と中指を立てた。よく響く声で、叫ぶ。 「悪しき者との縁を断ち切れ。(かい)!」  その指を吉田くんに向けると、彼のおでこにぽわっと光がともる。それは星のマークをつくっていた。すると不思議なことに、吉田くんの瞳からすっと熱が引いていく。 「……あれ。おれ、なにしてたんだっけ」 「え?」  おどろくわたしに、三条くんがすかさず、わたしのメガネを手渡してきた。  そ、そうだ、メガネ!  あわててメガネをかける。 「あ、九重も三条も、さっさと移動しろよ。先生に怒られるぞー」  じゃ、と吉田くんはなにもなかったみたいに、教室を出ていく。 「……な、なに、いまの」 「これが、いきすぎたおまじないの末路だ」  ぽかんとするわたしに、三条くんが静かに言った。 「いきすぎた、おまじない……?」 「そうだ。九重さんは、歪んだおまじないを使っている」 「なに、それ」 「彼がきみに告白したのはおまじいのせいということだ。もっと言うと……いや、残念だが、授業がはじまるな。行くぞ」  え。ちょ、ちょっと! 「ここで話止めるの⁉」 「当たり前だ。学生は学業が本分だからな。理科室の実験の準備もある。はやく行くぞ」 「真面目かよ、三条ソウマ!」  来たときと同じで、わたしは三条くんに引きずられながら理科室に向かった。  やっぱ意味わかんない! いま絶対、大事な話するとこだったでしょ⁉
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