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「九重さん? メガネを返してくれ」
「うわあっ!」
本当になにも見えないのか、三条くんがぐいっと顔を寄せてくる。わたしはかっと赤くなって、三条くんから逃げた。
お、落ち着け、九重エナ! これくらいのイケメン、モデルやってれば出会うことは多いでしょ!
でも、メガネはずしたら、ほんとにイケメンなんて、そんな、そんなの……!
「そのネタは、わたしのものなのに~っ!」
わたしは床に崩れ落ち、どんどんっと拳で叩いた。
「メガネはずしたら、あら美少女、はわたしがすでにやってるのよ、三条ソウマ! キャラ被りだ! ひどい!」
「なんの話だ。あとメガネを返せ」
と、そのとき。
扉ががらっと開いた。
「おーいふたりとも、次、理科室に移動だぞ」
クラスメイトの吉田くんだ。わざわざ呼びに来てくれたらしい。そんな彼と、ぱちっと目が合った。
(あ、まずい。わたし、メガネしてない)
瞬間、吉田くんの瞳に、ぎらぎらした熱が生まれたのが見えた。ずんずんと大またでわたしに近づいてきて、腕をつかまれる。
「九重、おれとつきあってくれ!」
唐突な、愛の告白。それはあまりにも、突然だった。だけど、わたしは予想できてた。やっぱり、こうなるじゃんか!
「ちょっと、離して、吉田くん」
「いいだろ。つきあってくれよ」
「むり! わたし、恋愛とか興味ないし!」
必死に腕から逃げようとするけど、力が強くてぜんぜん離れてくれない。ど、どうしよう。
「つきあうって言うまで、離さないからな!」
「い、痛いってば、ねえ!」
「頼むよ、九重! つきあってくれないなら、おれ、死ぬからな!」
「えええっ、まてまてまて! 落ち着いて、吉田くん!」
腕をつかむ力がだんだん強くなる。こっちの話、ぜんぜん聞いてくれない。だからメガネはずしたくなかったのに……!
「九重さん、おれのメガネを返せ」
「え?」
突然の声に顔をあげると、三条くんが手を伸ばしていた。
「いいから、はやく!」
「う、うん!」
わたしはとっさに、三条くんの手にメガネを乗せた。三条くんはすぐさまメガネをつけ、吉田くんを見つめると、人差し指と中指を立てた。よく響く声で、叫ぶ。
「悪しき者との縁を断ち切れ。解!」
その指を吉田くんに向けると、彼のおでこにぽわっと光がともる。それは星のマークをつくっていた。すると不思議なことに、吉田くんの瞳からすっと熱が引いていく。
「……あれ。おれ、なにしてたんだっけ」
「え?」
おどろくわたしに、三条くんがすかさず、わたしのメガネを手渡してきた。
そ、そうだ、メガネ!
あわててメガネをかける。
「あ、九重も三条も、さっさと移動しろよ。先生に怒られるぞー」
じゃ、と吉田くんはなにもなかったみたいに、教室を出ていく。
「……な、なに、いまの」
「これが、いきすぎたおまじないの末路だ」
ぽかんとするわたしに、三条くんが静かに言った。
「いきすぎた、おまじない……?」
「そうだ。九重さんは、歪んだおまじないを使っている」
「なに、それ」
「彼がきみに告白したのはおまじいのせいということだ。もっと言うと……いや、残念だが、授業がはじまるな。行くぞ」
え。ちょ、ちょっと!
「ここで話止めるの⁉」
「当たり前だ。学生は学業が本分だからな。理科室の実験の準備もある。はやく行くぞ」
「真面目かよ、三条ソウマ!」
来たときと同じで、わたしは三条くんに引きずられながら理科室に向かった。
やっぱ意味わかんない! いま絶対、大事な話するとこだったでしょ⁉
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